99年8月7〜9日関東方面墓巡礼決死隊調査報告書


8月の墓地は一年で最も過酷。
広大な墓地に日陰はなく、墓石からの照り返しで墓地の気温はおそらく50度以上。そこへ蚊、ブヨ、アブの熾烈な攻撃。それにも関わらず巡礼決死隊に志願してくれた、底抜けに酔狂な後輩の2人にまず感謝の言葉を贈りたい。

今回の編成メンバーは、近現代の哲学者や俳人に造詣の深いT氏、かつて関東に居を構え全地下鉄、全乗り換え駅が頭の中に100万メモリー分インプットされている人間ナビMr.N。そして300ページに及ぶ首都圏地図を脇に抱えた僕。
この3人の鋼鉄スクラムは、黒い3連星と呼ばれるほど1ミリも隙がない、最強の布陣だった…全員が三十路前後であり体力はレッドカードだったが。
初日の鎌倉霊園(360階段)、2日目ラストの池上本門寺で全員が白目をむき泡を吹いたのは、マイ・スウィート・メモリーとして終生忘れることはあるまい。

以下、謁見者リスト(巡礼順)。

8月7日(土)→正午に鎌倉駅周辺からスタート。
黒沢監督、川端康成、源頼朝、北条政子、源実朝、高浜虚子と廻る(レンタサイクルを立ちコギし、鎌倉の町をマッハで疾走!)。
その後北鎌倉へ移動。小津安二郎、開高健、小林秀雄、岩波茂雄、西田幾多郎、野上弥生子、鈴木大拙、渋澤龍彦に謁見。
午後6時、帝都に突入。しかし青山霊園の星新一は健闘虚しく発見できず、一同、男泣きの涙に暮れる。

その後さらに都心へ移動、暗闇の中、Mr.Nの懐中電灯を頼りに平将門の首塚と対面。京都で斬首された首がここまで飛んできたという立札を読んで一同震え上がる。

夜は上野のカプセルホテル(3600円!)に全員収監。大浴場にて3名同時昇天。

8月7日(日)→日の出と共に行動開始。
時計を見て「考え直してください」という2人をヘビのようにクールな目で叩き起こす。6時前には既に一人目の葛飾北斎の墓前(浅草)に立っていた。続いて、長谷川一夫、上田敏、横山大観、徳川慶喜、正岡子規、手塚治虫、石ノ森章太郎、樋口一葉、三船敏郎、横溝正史、藤子・F・不二雄、溝口健二、力道山と、東京23区をピョン吉もびっくりのド根性で大巡礼。
この時点でもう18時半。後輩2人は翌日仕事なので(僕はもう1日有休をとった)、東急池上線洗足池駅にて、慟哭、嗚咽しつつ別れる。

ここから独りぼっち。勝海舟と会った頃はもう真っ暗だった。
しかし、もう一人の“勝”が僕を呼んでいた。そう、勝新太郎その人だ!墓のある寺は既に門が閉まっていた。だが手で鍵が外せたので「スンマセン」と寺墓地へ潜入。民家の明かりを頼りに墓をひとつづつ確認していった。
すると、しばらくして門の方から人の気配が…それは懐中電灯を持った住職の奥さんと、お婆さんだった!僕は闇の中で突然姿を照らされ狼狽してしまった。

「いや、その、けっして怪しい者ではないんです。ちょっと勝さんのお墓参りがしたくて…!」
「お墓参り!こんな時間に!ここ、お墓ですよ、ライトも持たずに恐くないんですか!?」
「う…怖いというより、やっぱり会える嬉しさの方が…」
「わたしら寺の者でも夜は恐くて一人で入れないのに。お婆ちゃん、この人ときたら、あれまぁ…」

その後、再びカプセルホテルへ。日曜でサラリーマンの出張組がおらず、ホテルはガーラガラ。この夏は海に行かぬので、大浴場の水風呂でグラン・ブルーごっこにしばし興じる。

8月9日(月)→今朝も6時前には既に立原道造の墓前にいた。
僕は東京の通勤ラッシュが地獄だと聞いていたので、この朝は覚悟を決めていた。しかし結局体験しなかった。
なぜか!
それは次の柳生一族の墓で思わぬ足止めを食らったからなのだ。

練馬にある柳生家の墓のたたずまいは、僕の墓巡礼人生の中で、ダントツの渋さだった。この朝、太陽は少し顔をのぞかせてはスグに雲に隠れるあいにくの曇り空。しかし、僕は強い陽射しを浴びた陰影に富む墓の写真がどうしても欲しかった…結局、太陽が出るまで2時間もカメラを構えたまま墓前で過したのだ。最後に撮影できたから良かったものの、時すでに9時になっており朝のラッシュは終わっていた…。

その後、埼玉に尾崎豊、高尾山に寺山修司を訪ねてみたが、移動時間の天国的な長さに仰天。おかげで午前中に4人しか会えず焦りまくった(さすがにこれ以上有休を出す勇気はなかった)。午後になると、墓地内でも走りたおした。
梅原龍三郎、大岡昇平、亀井勝一郎、岸田劉生、下村大観、徳田球一、徳永直、岡本太郎、長谷川町子、向田邦子、堀辰雄、喜多川歌麿、服部半蔵、片っ端から会いまくった。

最終的に3日間のトータルで、18寺、6霊園、3人の自然墓を巡り計48人と謁見したことに。
午後11時、大阪に生還した。

帰ってからの隊員のコメント〜
T氏「樋口一葉女史の為に途中で花束を買い、そのあげく、ウットリと墓石に抱きついて離れないカジポンの姿は寒かった。変態警報でてます。」
Mr.N「始めの3人まで記憶がありますが、酷暑で脳が沸騰し、後はずっと桃源郷をさまよっていました。」

今回の僕の総括〜
「もう、しばらくは誰も死なないで欲しい」







オヌシは

番目の旅人でござる