【2004年シネマ・レポート】

毎年秋に発表しているシネマ・レポート。劇場、ビデオを問わず、僕が一年間
(昨年11月から今年10月末まで)に鑑賞した新旧の映画を10点満点で紹介
します。56本分を公開年別高順位のものから書いていますので、レンタル
の参考に是非ど〜ぞ!(*^o^*)

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★2004年度公開作品

●『モーターサイクル・ダイアリーズ』(10)
この映画はアルゼンチンの2人の若者--29歳の“放浪化学者”と、23歳の
生真面目な医学生--が“怪力号”と名付けられた一台の中古バイクにまたがり、
半年がかりでチリ、ペルー、コロンビア、ベネズエラと、南米大陸を南北に縦断
する珠玉の青春映画だ。作品は次の言葉で始まる「これは偉業の物語ではない。
同じ大志と夢を持った2つの人生が、しばし併走した物語である」。主人公の
声が重なる「旅行計画:4ヶ月で8千キロを走る。目的:本でしか知らない南米大陸
の探検。移動手段:“怪力号”。運転手:アルベルト・グラナード。僕の友人で29
歳。自らを“放浪化学者”と呼ぶ。副運転手:僕、エルネスト・ゲバラ。“激しい男
(フーセル)”。23歳」。当初2人の若者は、何でも見てやろう、異国の女性と
ロマンスを楽しもう、そんな軽い気持ちで旅に出る。だが、雪のアンデス、灼熱の
アタカマ砂漠、大アマゾンなど過酷な自然と向き合い、インカ、マチュピチュ古代
遺跡で人類の歴史の中を通っていくにつれ、自分と世界の接点を模索し始め
視野が広がっていく。バイク移動から後半はヒッチハイクに移るが、バイクを
降りて諸国を歩き出して、初めて見えてきたのは抑圧され貧困にあえぐ民衆の
姿だった。南米の光と影を知り、若者たちはそれぞれに魂の進むべき方向を
見出していく。
映画には描かれないが、主人公のゲバラはこの貧乏旅行の7年後にキューバ
革命を成功させ、国連で自らの理想を演説する人物になる。米国CIAの陰謀に
よって39歳の若さで射殺されるが、死後約40年となる現在も第三世界の英雄
としてカリスマ視されている。製作総指揮は名優ロバート・レッドフォード、監督
は『セントラル・ステーション』で全世界を感動させたブラジル人ウォルター・
サレス。レッドフォードは言う「私が描きたいのは革命家チェ・ゲバラになる以前、
なぜ無名の23歳の医学生が、世界史に名を刻む男になったか、そのエネルギ
ーの源だ」。映画は政治色を一切排し、ゲバラの人間的な部分にスポットを
当てる。上映時間は2時間だけど、見終わったときに3人目の旅人として、
半年間彼らと共に旅をしていた錯覚に陥った。この映画は、全ての若い人に
見て欲しい。もし僕が二十歳前後にこの映画を見ていたら、めちゃくちゃ影響を
受けていたと思う。決して歴史的事件やセンセーショナルなエピソードが描かれ
ている訳ではなく、ハッキリ言って地味な映画だ。でも、この2時間は絶対に
人生にプラスになると約束する。自分の内部で何かが変化し始める興奮を体感
できる、そんな熱い映画だッ!

●『21グラム』(9)
人は死んだ瞬間に21gだけ体重が軽くなるという。その21gとは何なのか?魂に
重さが?余命短い心臓病の男(ショーン・ペン)、事故で家族を失った妻(ナオミ・
ワッツ)、そして事故で人の命を奪ってしまった神父(ベニチオ・デル・トロ)らが
抱えている苦悩、そして傷ついた魂が「Life goes on(それでも人生は続く)」を
キーワードに再生していく過程を描く。超ヘビーな映画だったが、こういう直球型
の重い映画は久しぶりだったので、すごく「映画を観た」(大作映画とは違う意味
の)という充足感があった。3人の演技力はもはや神がかり。デル・トロは普通に
歩いてるだけでも凄まじい存在感が画面に溢れている。あり得ない!
※この映画は時間軸がバラバラなんだけど、頭の中でパズルのピースを集めて、
ひとつの作品にまとめあげちゃうんだから、ヒトの脳ってすごい!映画とは関係
ない部分で感心してしまった。

●『下妻物語』(9)邦画
なんちゅう楽しい映画が誕生したのか!こんなに笑った日本映画は『青春デンデケ
デケデケ』以来12年ぶり。深田恭子(役柄はロリータ・ファッションの超自己中
オンナ)と土屋アンナ(友情に厚いド硬派走り屋)という、正反対の2人の友情物語
だ。最初から最後まで場内は爆笑の渦。その中でホロリとさせるシーンも随所に
登場し、完璧にこの映画の魅力にノックアウトされた!カンヌでの試写会後、欧米
の映画関係者から配給のオファーが殺到し、世界公開が決定したのも納得。
テレビドラマをあまり見ない僕は、深キョンをマトモに見るのはこれが初めて。
独自の雰囲気があり、芸能界の波間に消えていく他のアイドル女優とは違うと
思った。「とび蹴り→頭突き」の受け身も素晴らしかったし(笑)。土屋も偽物の
ベルサーチに興奮する初登場シーンから、最後まで観る者のハートをしっかり
掴んでいた。女性陣以外で忘れちゃならないのが宮迫博之!あの怪演ぶりは
伝説になるだろう。うーん、良い映画を観た。※「(土屋)女は人前で泣いちゃ
いけないんだ。同情されちまうからな」「(深田、後ろを向いて)でも、ここには
誰もいないよ」…たまらん!!

●『ブラザー・フッド』(9)
ド硬派超ヘビー。第二次大戦やベトナム戦争を題材にした映画は何度も見てきた
けど、朝鮮戦争の映画は初めて。米軍対独軍、米軍対北ベトナム軍と違って、
言葉が通じ合う同じ民族同士の戦いは、互いの言葉が分かるだけに戦争の悲惨
さが際立った。「思想の違いってのは同朋で殺しあうほど大切なのか!?」という
前線の兵士の叫びが強烈!戦闘シーンのリアルさは日本映画がお子様ランチに
思えるほど。(残酷なシーンが多いという意味ではなく、画面から伝わってくる戦場
の狂気じみた空気が作り物とは思えなかった。あの緊迫感、息苦しさは言葉で
説明できない!)主人公2人の熱演も素晴らしいの一言。韓国ではアイドル俳優
とのことだが、鬼気迫りすぎ!※ただ、音楽が大きすぎて演技の邪魔になっていた
のは残念。戦争映画に“直球”すぎる音楽は必要ない。あざとさが出てしまうから。
それで一点減点。

●『ビッグ・フィッシュ』(8)
大人のための素晴らしいファンタジー。この映画は、平凡に思える日常生活でも、
少し見方を変えるだけで愛と冒険に満ち溢れた人生に変わることを教えてくれた
(“人生をいかに楽しめるか”というのも才能だと思った!)。荒唐無稽なホラ話が
美しい映像と俳優の名演で綴られ、場面が変わる度に僕は絵本をめくっている
気分になった。とても丁寧に作られているのが魂レベルで観客席に伝わってきた。
心のこもった映画を見るのは実に気持ちの良いものだ!

●『スクール・オブ・ロック』(8)
サイコーに面白かった!アマチュアのロック・バンドをクビになった男が、名門
小学校の先生になる物話。生徒の父母や校長に内緒で作った“裏・時間割”が
すごい。算数や社会も全部ロックにからめたものに変え、朝から「ロック音楽史」
「ロック鑑賞」「楽器練習」という臨時カリキュラムがびっしり。ひたむきにロック
の魅力を子どもに訴え続ける姿は、実にピュアで見てて気持いい。低予算の
映画でビッグ・スターも出ていないけど、そんなの全然関係ナッシング。映画的
な面白さは突き抜けたものがあった!

●『スパイダーマン2』(8)
正直、前作がイマイチだったので、2はビデオで充分だと思っていた。派手な
予告編を見て、“もうハイライトを全部見ちゃったよ…”って感じだったけど、
ネット上の評判があまりに良いので劇場に足を運んでみた。あ、あ、危なかった!
自分はアホだった!予告編のバトルシーンはほんの前菜で、あの何十倍も
見せ場が用意されていた!しかも!このパート2は単なるアクション映画ではなく、
“ヒーロー”であるがゆえの葛藤、揺れ動く繊細な胸の内を綴った、とても良い
ヒューマン・ドラマであり、上質で爽快な青春映画だった!貧乏で家賃も払えず
大家さんからコソコソ逃げたり、コスチュームをコインランドリーで洗い(しかも
色落ちしている)、いつも疲れた顔をしている痛々しいヒーロー。悪党との戦いに
巻き込みたくないという理由で、好きな女性に愛を伝えることもできずボロボロ
になっていくヒーロー。今までこれほど親しみを感じるトホホなヒーローがいた
だろうか!?主役のトビー・マグワイアは、一見能面ヅラの俳優に見えるけど、
時折見せる少年のような笑顔や、バトル中の歪んだ顔など、実はとっても表情
豊かだ。敵役の俳優は普通のおじさんだが、それがまた良い。シュワちゃんや
デ・ニーロの可能性もあったというが、それでは俳優のキャラが立ち過ぎて、
一般人が暴走した時の怖さを出せない。制作費220億円のアクションシーン
はダテじゃなく、NYの摩天楼を舞う疾走感、超高速のスピード感は前作から
格段にパワーアップしてて、あの浮遊感を味わうだけでもスクリーンで観る
価値はあった。(パート3は07年公開予定)※微妙ネタバレ…例の地下鉄の
シーンは、人々を救おうとして十字架にはりつけられているキリストとダブッた
(ポーズもそうだし)。だからこそ、白人黒人関係なく、色んな人種の手が
彼を支えることに、皆で彼を守ろうとしたことに鳥肌が立った。バカラックの
「雨にぬれても♪」やエレベーターのシーンは伝説になる名&迷場面だね。

●『デイ・アフター・トゥモロー』(8)
パニック・ムービーだけど安易に作られたものじゃなく、ちゃんとメッセージ性も
含まれていて思いのほか良かった!異星人が攻めて来るのでも、巨大生物が
暴れるのでもなく、地球温暖化が世界を壊滅させるというのが斬新。米政府が
温暖化防止条約京都議定書を離脱し、好き放題に振る舞ってる今、この映画を
ハリウッドが作ったということはとても意味があると思う!ド派手なCGを使った
災害ムービーは食傷気味だけど、ロスやNYが、竜巻、大津波、超寒波で崩壊
していく様は、本気で震え上がった!「ドヒョー!」「ホンゲーッ!」の連続だ。
大スターは出てないけど、そんなの必要ない。主役はあくまでも「地球」だ。
物語がテンポ良く進むのでグイグイ引きこまれたし、ホント見せ方がうまいなぁと、
感心しきり。※米国民がメキシコに不法移民としてなだれ込み、メキシコ側が
国境を封鎖するブラックな脚本に笑った。ドラマ性が薄いのは確かだけど、
先進国が途上国に助けを求める展開に、創り手の良心を感じた!エメリッヒ
監督を見直したぞ!

●『パッション』(8)
キリスト逮捕から処刑までの最後の12時間を映画化。血みどろのムチ打ち、
またムチ打ち、そして十字架への手足の釘刺し。まさに凄絶の一言。これまで
“イエスは最後に磔になった”とは知っていたけど、話として知っているのと、
実際に映像として見るのは大違いだ。どんなに傷つけられても神の存在を
信じている姿は、無神論者から見れば異様に映るだろう。しかし、僕はキリスト教
の神を信じていないにもかかわらず、脱水状態になるほど泣いた。瀕死の状態に
なっても「汝の敵を愛せ。愛してくれる人を愛して何の報いがあろう」「互いに愛し
合いなさい」「これで全てが新しくなる」と語り続けるピュアな心に圧倒されたから
だ。自分を処刑する兵士の為に「彼らにお赦しを。彼らは自分が何をやっている
か分かってないのです」と祈るイエス。神の肯定・否定という視点ではなく、1人の
思想家の生き様を見届けるつもりで見て欲しい。かつて、こんな人間が世界
にはいたんだと。キリスト教は十字軍など戦争の大義に利用され、その旗の下
に多くの人間が殺された。しかし、それは後世の人間の罪であり、イエス自身の
責任じゃない。イエスは愛することだけを説いていた。この映画はキリスト教を
信じる、信じないに関係なく、西洋の世界観を知る上でも、多くの日本人に見て
欲しいッ!(十字架の場面は本当に生々しく、海外で観客が心臓発作を起こし
3名が亡くなっている)※必要豆知識…当時のエルサレムはローマ帝国の
占領下。地元の既成宗教の神官たちが新興宗教の教祖イエスの人気ぶりに
脅威を感じ、言いがかりをつけて逮捕、ローマ兵に差し出した。ローマには
死刑制度があったからだ。※豆知識2…キリストは30才の頃に啓示を受ける
まで、ただの大工さんだった。

●『シュレック2』(8)
“長靴をはいた猫”がカワイすぎる!もう、あの猫のことしか記憶に残っていない
くらいツボにハマッた。っていうか、自分的にはあの猫が主人公だよ。それに
ただカワイイだけじゃなく、クライマックスの活躍ぶりなんか、カッコ良すぎて泣け
てきた。今回もピノキオ、眠りの森の美女、人魚姫ら童話キャラたちの身体を
張ったブラック・ギャグが炸裂したけど(特にピノキオのギャグは子どもの夢も
何もあったもんじゃない、身もフタもないギャグ)、宮崎アニメにはないダークな
笑いが鮮烈だった。それから、第1作で感じた風景の美しさは今回も健在!
実は、CGで描かれた“ニセモノ”の風景に心から感動したのは「シュレック」が
初めて。「2」でも改めて“CGだって暖かいタッチの映像を作れるんだなぁ”と
感心した。劇中にはミュージカル映画なみにノリのいいナンバーが次々流れて、
最後まで飽きさせなかった。城の鐘の音にも感動した!※エンディング中に
オマケ映像があるので、すぐに席を立たないように。

●『華氏911』(8)
俳優ショーン・ペンが“ここに極悪きわまる腐敗政権が描かれている”と語った
通り、これでもかというほどブッシュが叩かれていた。この映画が政治的に偏って
いるという批判は的外れだ。ムーア監督がこの映画で最も強く主張している「大量
破壊兵器もなく、アルカイダとも何も関係ないイラクにブッシュが攻め込み、多くの
民間人と米国兵の命が犠牲になっている」という事実に変わりはないからだ。
映画手法うんぬんといった批判は、情報部が報告した9.11の警告をホワイトハウス
が無視したこと、ブッシュとビン・ラディン一族が利権で繋がっていること、政権
トップクラスの連中が戦争ビジネスでボロ儲けしていること、こうした現実の前では
取るに足らないことだ。テレビではオンエアされないような戦場のえぐいシーンも
出てくるけど、子どもたちにハッキリと戦争はカッコイイものでも、ロマン溢れるも
のでもなく、狂気と残酷さが支配する生き地獄だと理解させる良い機会だと思う
(特に米国ではね)。ただ、手放しで絶賛はしない。反ブッシュの僕でさえ「こんな
個人攻撃のやり方は逆効果だ」と嫌悪を感じるシーン(小学校の場面等)が
あるし、自分が米国人であれば“投票先くらい自分で決めるから政党名を出して
指図してくれるな”、こんな風に思うだろう。賛否両論はあるけど、様々な意見を
聞いて自分で判断することが何より大切なので、見ておくべきだと思う。2時間
ずっと他人の悪口を聞くのは(ブッシュがどんな男であれ)生理的に辛いけど、
愛する者の死すべき理由が分からない遺族はもっと辛い。ムーアは新聞のイン
タビューで、“真の悪はブッシュではなくチアリーダーになって戦争を煽ったメディ
アだ”と語っていた。「主流メディアのエリート連中には、恥じ入って欲しい。
あなた方が怠けてしなかったことを、(自分のような)こんな野球帽をかぶった
高卒の男が世界中で映像を掘り起こし、補っているんだから」。ムーアよ、どうか
長生きしてくれ。

●『花とアリス』(8)邦画
傑作『リリイ・シュシュのすべて』に続く岩井俊二監督の作品。「リリイ」は少年達の
崩壊する精神世界を描いた深刻な作品だったけど、それとはうって変わって、
恋あり笑いあり涙ありの女子高生・友情物語。館内が何度もドッと爆笑に包まれた。
物語はスローテンポで進むけど見せ場がいくつも用意されてるので、良い意味で
「あれ?まだあるの?」の連続。だから2時間強の作品なのに、4時間くらい見てた
気がした。主演の2人がセリフも含めて全部アドリブかと思うほど自然態なので、
映画を見てるのを忘れてしまいそうになる。一番心に残ったのは普段着で踊る
バレエのシーン。チュチュではなく普段着だからこそ、バレエの素晴らしさが良く
分かった。ポーズを決める度に、日常が突然非日常の美しさに包まれ、バレエに
全く関心がない男の人でも「バレエ、いいじゃん!」ってジーンとなると思う。
映画のBGMでずっとピアノが流れてて、それが作品の雰囲気とピッタリで心地よか
った。ピアノが良く似合う映画ってのはいい。
(ややネタバレ。残念だったのは、文化祭シーンの鈴木杏の顔面アップが異常な
ほど何度も繰り返されキツかったのと、落語の尻場面がクドすぎたのと、広末涼子
に不必要に見せ場を作ってやること。周りのスタッフが勇気を出して意見するべき)

●『恋愛適齢期』(7)
J・ニコルソン扮する60代の男と、ダイアン・キートン扮する50代半ばの2人
のラブ・コメ。若い異性より、人生経験を積んできた異性の方が、会話の引き
出しも多く喋って楽しいということに2人は気づいていく(良い話じゃないか!)。
サブ・キャラで出ているキアヌ・リーブスがマトリックスと違って嬉々と演技して
たのが印象的だった(笑)。

●『アップルシード』(7)邦画
米国で試写会をした時に「ハリウッドでは制作不能」とまで現地の映画人に
言わしめた、驚異の映像体験だった。なんというか、映像的にはもう行き着く
とこまで行ったという感じ。あまりにも背景がリアルすぎて、最初はしばらくの
間、人物が背景に馴染まず生理的に息苦しくなるほど。人物がのっぺりして
るのはアニメだから当然なのに、それに違和感を覚えるほど究極のリアル
映像だった。作品の舞台は近未来、世界大戦後という設定。何度も戦争を
繰り返してきた人類は、平和を愛するクローン人間(クローンはクローンを
殺さない)を生み出し、彼らと共存することで理性を維持し、戦争を根絶しよう
と試みている。しかし、人間の中にはクローンを差別する者もいて、社会情勢
が不安定になっていく…そんな物語だ。野郎どもは“多脚砲台”の映像美に
泣けッ!

●『トロイ』(7)
「人間ドラマが希薄」と方々で叩かれているので期待せずに見に行ったら、
これがかなり良かった!原作は古代ギリシアの詩人ホメロスの叙事詩「イー
リアス」。映画は長大な原作を上手くまとめていた。トロイア戦争の知識は
文字として頭にあっても、あまりに壮大な物語で、現実感が全くなかった。
しかし、この映画のスタッフたちはやってくれた!観客に千隻の大船団を見せ、
視界の彼方まで浜辺を行進するギリシア連合軍の姿を見せてくれた。映画
史上最大のスケールで合戦シーンを描きつつも、ベースになっているのは
戦いの虚しさ、無常さという姿勢も良い(木馬作戦後のトロイ炎上のシーンは
その最たるもの)。敵に対して敬意を持って戦う姿に胸が熱くなった。自軍の王
より敵の王を尊敬するアキレスにしびれまくり。『ロード・オブ・ザ・リング』で
大軍同士の衝突は見慣れたハズなのに、魔物対人間と違って、人間対
人間は両軍に感情移入できる分、より緊張感があったし、鬼神のようなアキ
レスと彼の部隊の戦いぶりから、当時の盾や槍の使い方も分かった。3200
年前の世界に2時間もタイムトラベルできたのは、本当に貴重な体験だった!
印象的だったセリフはアキレスの「神々は人間に嫉妬しているんだ。人間
には寿命があるから。世の全てのものは散る瞬間が一番美しい。命も限りが
あるから美しい」。役者も頑張っていた。存在感No.1はトロイ王を演じた
“アラビアのロレンス”P・オトゥールだけど、『ロード…』のレゴラス役だった
O・ブルームのダメ王子ぶりも良かった。あれだけ観客の気持ちをイラつか
せるのは名優の証だ。そしてブラピ。熱演と共に、40歳とは思えないムキムキ
筋肉が圧巻だった。映画の後、帰りの電車で自分のアキレス腱を眺めながら、
この身体に彼の名前が刻まれていることに感動した。医学者や化学者でも
ないのに、名が人体の一部となっていることにジーンときた。

●『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』(7)
ぶっちゃけ『ハリ・ポタ』は前作が超退屈だったので、それほど期待してなか
った。でも今回は物語が波乱万丈、魔法のシーンも多く個人的には十分
楽しめた。ここのところ、大作映画で派手なCG技術はお腹いっぱいだっん
だけど、本作の魔法シーンのように、笑いとユーモアの為に使われる小粋な
CGはとても好感が持てた。また、シリーズ3作の中では、山や湖などの自然
風景が最も詩的で美しく(まさかCGじゃないよね?)、物語と関係ない部分で
画面に魅入ってしまった。ロケ地が分かれば行ってみたいな。原作とは違う
部分も多いらしいけど、未読の自分としては純粋にエンターテインメント映画
として面白かった。ハリーもハーマイオニーも背が伸びたなぁ。

●『アイ,ロボット』(7)
30年後の未来のシカゴを舞台にしたロボット反乱映画。定番のストーリー
ながら、話がどんどん展開していき最後まで見せてくれた。新製品の発売で
廃棄される旧型ロボットたちの描かれ方にホロリ。CG技術の発達で、自分が
未来社会を旅してきた気になった。

●『イノセンス』(6)邦画
邦画で初めて米国ビルボードのトップに輝き、マトリックスの元ネタになった
『攻殻機動隊』の続編で、近未来のサイバー犯罪に挑む警官の活躍を描いて
いる。冒頭からとてつもない映像美のオンパレードで、おそらく現時点で「映像的
には」日本アニメの頂点に位置する作品と言っていいだろう。あり得ないほど
リアルに描き込まれた美しい映像に、最後まで息を呑みっ放しで、作り手の
気迫と凄みを感じた。しかし!万人にお薦めできるかといえば、躊躇してしまう。
前作を観ていないと主人公と恋人との関係が分からないし、作品だけの専門
用語が何の説明もなく次から次へと出てくる。物語自体もダーク。政治家や
暴力団とパイプを持つ、性的愛玩ロボットを作っている企業が、少女ロボットに
リアルな感情を持たせる為に、生身の少女たちを誘拐、その精神を移植して
いく(少女たちは廃人になる)、そんなドロドロの企業犯罪を暴くもの。物語の
展開はスローで、マッタリ感が全体に漂い、爽快さとは無縁。それでも映像に
圧倒される感覚を味わいたいという人には、120%お薦めできる。クラッと
くるよ。

●『バイオハザード2 アポカリプス』(6)
パート1でもそうだったけど、とにかくミラ・ジョボビッチがカッコイイ!それに
尽きる!彼女はどんどん良くなる。バトルシーンはカメラが近すぎて何をやって
るのか分からんが、それでも超クールでイカしたミラの勇姿に釘付け!全体の
テンポがよく、全くダレないアッという間の93分。ホラーというより完璧にアク
ション映画。パート3も絶対見に行く!

●『キル・ビル』vol.2(6)
副題に“ラブストーリー”とあるように、スプラッタのパート1とは全く違う
テイストの作品になっている。生き埋めのシーンがやたらリアルでブルッち
まった。北斗神拳まで登場したのにはおったまげた。

●『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ!夕陽のカスカベボーイズ』(6)邦画
別世界の住民となり、日本で暮らしていた頃の記憶が日に日に薄れていく
のと、それを忘れまいと必死で思い出そうとするメイン・キャラに感情移入
した。アクション・シーンもなかなかのもの。でも、前作『戦国大合戦』が与え
てくれた感動には遠く及ばなかった。

●『スチームボーイ』(5)邦画
科学の発展と戦争を絡ませたのはいい。映像も日本アニメの過去最高水準
だった。しかし、10分で終わる話をズルズルと2時間見せられたのは辛い。
また、本職の声優ではなく俳優を使ったせいか、キャラにイマイチ血が通って
おらず、最後まで感情移入できなかった。BGMのボリュームもでかすぎて
途中から頭痛がした。もちろん、これらのマイナス面を差し引いても、そこら
へんのアニメをはるかに上回るデキであることは間違いないが…AKIRAを
熱愛していただけに、期待が大きすぎたということか。最近の大作アニメは
どれも絵がきれいなだけで、あまりに物語に魅力がない。テーマを掘り下げず
薄っぺら。最初はそれでも絵がきれいでアクション・シーンがド迫力であれば
良いと思っていたけど、自分が年をとったのか、だんだんキツくなってきた。

●『ディープ・ブルー』(4)
ガックリ。30分の内容を無理矢理90分にしたような中身の薄さ。海洋ドキュメン
タリーとして解説が必要な場面(蟹のとことか)にナレーションはなく、同じ場面を
バカみたいに繰り返し上映。海の映画なのに鳥ばかり出てくるし。“詩的にした
い”という狙いは外れ、ひたすら間延びしまくり。編集の大失敗で、貴重な映像を
撮影してきたカメラマンがほんと気の毒。戦犯は監督か?プロデューサーか?
予告編が一番良かった。

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★2003年度公開

●『ラブ・アクチュアリー』(10)
最高ッス!五つ星ッス!単なるラブコメを超えた大きな人間讃歌だった!未見の
人は、ビデオ化されているので速攻で観て欲しい!脚本がとにかく素晴らしい。
同時進行で9つのラブ・ストーリーが進むんだけど、各エピソードはどれも1本の
作品として上映できるほど良い話。9つもあれば混乱しそうなものなのに、それぞれ
に名セリフや名場面がテンコ盛りで、構成の破綻もなく、ラストまでグイグイ引っ張
られた(各エピソードのクライマックスがホント良い。恋をあきらめる男性の、気持
の決着のつけ方が最高)。シャイな19人の男女の想いが飛び交う中、劇場は
終始笑いに包まれていた。大袈裟にではなく、自分はこれまでに観たどの恋愛
映画よりも、一番よく笑ったし、よく泣けた(悲しみの涙ではなく、“人間っていい
なァ”の涙)!ヒュー・グラントを始め役者は皆演技が達者だし、音楽もツボを
ついた選曲で楽しい。観た後に優しい気持になれる珠玉の一本デス!

●『ファインディング・ニモ』(10)
満点!最高に楽しく、また感動的な作品だった。海底の映像美はタメ息ものだし、
たたみ掛けるギャグのオンパレードに爆笑、また爆笑。ドリーのボケっぷりは芸術の
域に達していた。「あきらめずに泳ぎ続けるんだ!泳ぎ続けろ!」というメッセージ
は、まるで自分が言われている気がして激涙。他にも「絶対に危機を切り抜けられ
る…しかも楽しみながら!」など良いセリフがいっぱい。ブラックなものでは「人間
ってのは何でも持って行きやがる。ありゃきっとアメリカ人だ」というのも(汗)。
子どもの成長物語だけでなく、親の成長物語でもあった。※絶対に日本語吹替え版
をオススメします!あのセリフの洪水を、字数の制限がある字幕版で忠実に再現
する事は不可能!複数のキャラが同時に喋るシーンも字幕だと順番に出てくるので
勢いが落ちる。声優もいいし、ぜひ吹替え版を観て下さいッ!

●『ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還』(9)
ただただ圧倒された!まばたきするのも忘れて画面に見入っていた。前半は少々
タルいんだけど、中盤からラストまでが壮絶の一言!地平線まで続く大軍と大軍の
激突、また激突!僕が映画ファンになり始めた中学の頃は、まさか自分が生きてる
うちに、ここまで壮大な戦いを映画観られるとは思っていなかった。足かけ3年に
及んだ3作の上映時間は合計10時間近くなるけど、この映画に関しては、その
長時間が功を奏している。おかげで観客は完全にフロドやサムと旅をしている
気になる。だからこそ、旅の終りは登場人物と一緒になってハラハラと泣くことが
できるんだ(それもごく自然な感情で)。最後に、サム最高ッ!!あんたこそ真の
主人公!!

●『ラストサムライ』(9)
超良いッ!2時間半以上あり、話の展開もゆっくりなのに、全然長さを感じさせなか
った!映画全体がとても誠実な作りで(滅び行くものの前で襟を正す感じ)、それが
美しい自然の描写とあいまって、なんとも心地良い空間を作っていた。渡辺謙の
演技の上手さはハンパじゃない。劇場で声が出そうになるほどエグエグ泣いたのは
久しぶりだ。

●『東京ゴッドファーザーズ』(8)邦画
ここまで面白い邦画アニメは久しぶり。年末の東京を舞台に、3人のホームレス
(ギャンブルで破滅した親父さん、中年のゲイ、家出少女)が、捨て子を拾ったこと
から始まる大騒動を描く。テンポ良く進む物語は練りに練られており、途中で一瞬
でも席を外せば、もうストーリーが分からなくなるほどの密度の濃さ。ドンデン返し
につぐドンデン返し。感動的な物語の中にもギャグが満載され、場内は終始笑い
の渦!人生の悲哀を知っている大人のためのアニメ映画(圧倒的な映像美にも
度肝を抜かれた!)。
※劇中に出てきた俳句を紹介--『人生の 貸し借り済ませ 大晦日』

●『阿修羅のごとく』(8)邦画
この作品に出てきた魔法の言葉を紹介--「10年たてば笑い話だよ」。家族が喧嘩
しているのを黙って見ていた父親が、静かに語るこのセリフで、皆、頭に昇っていた
血がスッと下がるんだ。どんな辛い事にブチ当たっても、このセリフひとつで狭く
なってた視野が急に広くなり、悲しみや苦しみが薄れ、いっきにラクになる奇跡の
言葉だと思った!ここぞというところで使われた言葉の力は、なんて絶大なんだと
感嘆した!

●『マスター・アンド・コマンダー』(7)
映画というのは、時も場所も全く違う環境に生きる人間の人生を体験させて
くれるから面白い。一度きりの人生の中で、何人もの人間の生涯を追体験
できる魔法のようなものだ。アカデミー作品賞にノミネートされた本作は、ナポ
レオン時代、つまり200年前の海戦を描いたものだ。骨太な作品で、最初から
最後まで、主人公が指揮する英国船1隻と敵のフランス船1隻の、計2隻しか
登場しない。CG全盛の今、大艦隊同士の砲撃戦など簡単に作れそうなもの
なのに、あえて1対1の死闘を2時間かけてじっくり描く姿勢に好感。敵の顔が
ハッキリ見える近距離で大砲を撃ち合うド迫力、相手の航路を読みあう頭脳戦、
そして敵船や悪天候(自然)との戦いで散っていく仲間たち!特筆したいのは
音響。最近の映画館はサラウンド(後方にもスピーカーがある)なので、航海
シーンでは常に船体の“きしみ”が前後左右から聞こえてくる。おかげで映画を
観る2時間の間、ずっと自分が乗組員の一人として乗船している気分だった
(アカデミー音響効果賞受賞)。ただし、派手な砲撃戦があるとはいえ、映画
全体は日常の航行シーンがほとんど。むさ苦しい男ばかり出てくる地味な
映画で、物語的にもこれを観たからといって人生が変わるような話じゃない。
でも、“ナポレオン時代の海に行く”という不可能な夢を可能にしたいと思う人
なら、充分満足できる作品だ。

●『ザ・コア』(7)
地球内部の核(コア)の回転が変動して磁場が狂い、人類が滅亡の危機を迎える。
世界を救うため、9人の科学者がドリル・マシーンに乗って地球の内部に向かって
旅立っていく。アルマゲドンのように宇宙を目指すのではなく、地下を目指すのが
斬新だった。9人の乗組員が様々な困難に直面して一人ずつ減っていく過程が
ドラマチック。映画評論家からは陳腐なストーリーと叩かれていたが、特に気になる
中だるみもなく、いっきに最後まで見せた良いSFサスペンスだと思う。

●『死ぬまでにしたい10のこと』(7)
ヒロインはまだ23歳なのに癌で余命二ヶ月と宣告される。二児の母親である
彼女は、人生でやり残したことを10個選んでリストにし、それらを一つ一つ体験
しながら、自分の死後のお膳立てをしていく。リストの中には『旦那以外の男と
寝る…それがどんなものか知りたい』というのがあって僕はドギマギした。子ども
たちが成人するまで、誕生日ごとにメッセージをカセットテープに吹き込んでいく
姿にウルウル。

●『ライフ・オブ・デビッド・ゲイル』(7)
死刑制度の是非を問う映画はこれまでに何本も作られきたけど、こんなに壮絶
な物語は初めて。単に冤罪の問題定義をするだけでなく、サスペンスとしても
良く練られていた。役者も上手い。ミステリー映画でもあるので、これ以上は
ネタバレになってしまうので書けないッス!

●『パイレーツ・オブ・カリビアン』(7)
ジョニー・デップのひょうひょうとした魅力が最大限に発揮されていた。演技に
限って言えばデップのベスト・ムービーかも知れない。何も考えず見ていて楽しい
娯楽作品だ。

●『あずみ』(7)邦画
家康が豊臣方に放った刺客の物語。超ハードなストーリーと、随所で黒澤映画
を思わせるリアルな殺陣に、思わず見入ってしまった。脇役に良い役者を
揃えているし、各キャラに見せ場があったのがGOOD。敵も含めてすごい
キャラ立ちぶりだった!(主演が上戸彩ということもあり、見るまでアイドル映画
だと思ってた…めちゃ反省!)※全米公開が決定。

●『ミスティック・リバー』(6)
主演のショーン・ペンと助演のティム・ロビンスの男優2人が、ダブルでアカデミー
賞を受賞した話題作。幼なじみの3人の男の人生が、警官、被害者の父親、
容疑者という立場になって交錯する物語。以前から“救いのないストーリー”と
聞いていたので覚悟をして観た。この映画の登場人物が抱える悲劇は“コミュ
ニケーション不足”。相手を信じぬく事が出来ていたら起きなかった不幸。映画
って不思議だ。同じ観るなら、人生を明るく照らしパワーをくれる作品の方が
いいのに、救いのない物語を観ても“無駄な時間を過ごした”とは思わないもの。
色んな人生のカタチを見ておくのはとても重要な事だと思うんだ。“そうならない
ように”行動しようとするし、悲劇に対する免疫もつく。

●『茄子(なす) アンダルシアの夏』(6)邦画
高坂希太郎(宮崎監督の右腕)が初監督したアニメ映画。主人公は世界三大
自転車レースの一つ「ヴェルタ・ア・エスパーニャ」で戦う選手。自転車ならでは
の風をきる爽快感が、画面からビシビシ伝わってきた。低い目線の構図など
見せ方が工夫されてて、ホント、まるで自分が自転車に乗ってるみたいだった。
選手間の心理戦(駆け引き)は手に汗握るし、レース以外のドラマ部分も大人
向けのテイストでシナリオも良い(スピード感あるレースシーンと、ゆっくりと時間
の流れるドラマ部分のバランス配分が完璧)。47分と短いけれど、映画は
長ければいいってもんじゃないことが分かるお手本のような作品!

●『マトリックス完結編 レボリューションズ』(3)
微妙。映像が凄いのは確かなんだけど、問題はあのストーリーを面白いと
思うかどうか、だね。音楽が盛り上げようとすればするほど、話の薄っぺらさ
が浮かびあがってしまった。

●『キル・ビル』vol.1(3)
笑えるシーンもあったけど、基本的にはただのスプラッタだった。僕にとって
一度しかない人生の1時間50分をこの映画に費やした訳で、見終わった時に、
この時間で他に何が出来たろうとか考えてしまった…。劇中に『リリイ・シュシュ
のすべて』のサントラが使用されてたのにおったまげた。

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★2002年度公開

●『北京ヴァイオリン』(9)
親子愛と音楽の真価を描いた名作。貧乏ながらも男手一つで子供を必死で
育てるお父さん役の俳優が素晴らしすぎる。バイオリンの先生が生徒に語る
セリフも良かった--「音は正確だが、ただそれだけだ。音楽に感情がないんだ。
それでは人の心を打つことはできないんだよ!感情だけは誰にも与えられん。
技術なら教えられる。感情は自分のものだ。それは私には教えられないもの
なんだよ」。どんなに演奏技術が高くても、作品の心をつかまず、自分の曲に
なってなければ、感心はさせても感動を与えることはできない。
音楽は、結局最後は人間性なんだと改めて実感。

●『刑務所の中』(7)邦画
山崎努の演技がべらぼうに上手い!受刑者の最大の楽しみは食事。
見終わった後、無性にチョコレートやコッペパンが食べたくなった。劇中の
BGMが全部クラシックで意表を突かれた。

●『マイ・ビッグ・ファット・ウエディング』(7)
大家族が出てくる賑やかなラブ・コメ。元気があっていい。ただ、ヒロインの
女性の顔がメル・ギブソンそっくりで、あれにはまいった。

●『アダプテーション』(7)
ニコラス・ケイジ扮する主人公は脚本家。創作の苦しみが延々と語られ、
見てて息苦しいの何の。ニコラスは好きな役者なんだけど、双子役をして
画面に2人いるとめっさ暑苦しかった。出口のないストレス過多の物語だった
けど、蘭の魅力を語る場面で、生命や進化の神秘を感動的に説明していて
深く感じ入った。

●『フォーンブース』(7)
撮影のロケ地がひとつの電話ボックスだけ(主人公はボックスから出ると
殺されてしまうから)という革命的サスペンス。大金を注いで派手なロケを
しなくても、脚本次第でこんなにも盛り上がるという優れた見本だ。80分間、
まったく退屈しなかった!メイキングを見て、主演のコリン・ファレルがクライ
マックスの長い長いセリフを完全に暗記しているのを知り仰天。すごい役者だ!

●『英雄/HERO』(6)
秦VS趙の激戦や映像の美しさに息を呑んだ…が、惜しいかな、途中まで物語
のテンポが良かったのに、後半3分の1はまったく話が進行せず、退屈を超えて
拷問だった。基本的に僕はスローテンポの“雰囲気映画”も好きだけど、それだ
って限度がある。惜しい。(始皇帝の涙は良いシーンだ)

●『アバウト・シュミット』(6)
定年して全てを失った男の哀れさ。J・ニコルソンがせつなすぎ。

●『えびボクサー』(2)
巨大えびがボクシングをする英国のトンデモ映画。騙されたと思って見て
みろと友人に薦められ、本当に騙された。よくこんな馬鹿馬鹿しい映画を
作ったというスタッフの気骨に2点献上。

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★2001年度公開

●『ビューティフル・マインド』(7)
ノーベル賞をとった数学者の実話。類まれな計算能力を買われて、国防省の
暗号解析係に任命される。途中から、「え…?え?エーッ!?」という展開に
なってビックリ。ラッセル・クロウは焦燥感を出す演技が上手い。

●『ムーラン・ルージュ』(7)
劇中で使用されてるエルトン・ジョンの“僕の歌は君の歌”(原題ユア・ソング)の
後半が、あまりに良い歌詞なので紹介!
「♪屋根に座り爪先で苔を蹴りながら  考えあぐねながら生み出したこの歌
優しい太陽はその間僕を見守っててくれた  君のような人がこの歌に魂を
吹き込む  許してほしい舞い上がってる僕を  グリーンかブルーかその区別
もつかない僕  ただ分かるのは君に捧げるこの想い 僕は永遠に君の虜
皆に言うがいい “これは私の歌”と  ささやかで小さな歌だけど君に捧げよう
どうか気に入って欲しい 僕の想いをつづった歌を  ああ、生きるって素晴ら
しい この世界を君と分かち合いたい!」
人間って、こういう素敵な歌を作っちゃう生き物なんだよネ。これにピアノの
メロディーがつく。なんという音楽の力!

●『千年女優』(4)邦画
名作「東京ゴッドファーザーズ」と同監督ということで期待が大きすぎたせいか、
ちょっと肩透かし。良作ではあるけれど、もうちょい話に深みが欲しかった。

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★2000年以前

●『生れてはみたけれど』(10)邦画
クロサワと並ぶ世界的巨匠、小津安二郎監督の傑作だ。作られたのは1932年、
つまり70年以上も昔の作品だ(もちろん無声映画)。描かれているのは、ある
サラリーマンの家庭。主人公の小さな兄弟にとって、父親は威厳に満ちたヒー
ロー。しかしある時、父親が会社の重役の前でヘラヘラとゴマをすっている姿を
見てしまう。「お父ちゃんの意気地なし!」失望する子どもたち。「どうしてペコ
ペコするんだい」「あの人から給料を貰ってるんだ」「そんなもの、こっちから
やればいいじゃないか!」「あの人のほうがお金を持っているんだよ」「じゃあ、
お金があるから偉いの?家来になるの?」「…お金がなくても偉い人もいる」
「お父さんはお金がなくても偉い人?」これに即答できない父親…。ユーモアの
中に父親の悲哀が漂う、戦前のヒューマニズム溢れる名作だ!

●『旅立ちの時』(9)
23才の若さで夭折したリバー・フェニックスが、若干18才にしてアカデミー助演
男優賞にノミネートされた伝説の映画。若者が家族と別れて自分の道を歩み出す
過程を描いたものだ。リバーは落涙シーンで顔が紅潮しアゴがワナワナ震えて
いるので、こちらは演技を見ている気がせず、彼と共に感情のメーターが振り
切れた。どのシーンをとっても、演技にわざとらしさが微塵も無いのが驚異的。
彼は内面に溢れる感情を、セリフを使わずに表情や仕草だけで伝えることができる
稀有な役者だった。リバーの代わりはハリウッドにいない。この悲しい事実に、
映画ファンとして深い喪失感を味わっている。もし彼が生きてたら、ブラピや
ディカプリオには荷の重い役柄を見事に演じきって作品の質を上げていただ
ろう。リバーをドラッグで失ったのは、人類全体の文化にとって大打撃だった。
※リバーと女友達の海岸での会話が良い。「(貝殻を探すリバーに)何してる
の?」「母の誕生日の贈り物探しさ」「ほんと?浜辺にダイヤの指輪でも落ちて
ると?」「買った贈り物じゃいけないんだ」。“買ったプレゼントは却下”という
のは素晴らしい教育方針だと思う!本作品は両親を演じた役者も演技が
メチャうま。父親の別れのメッセージ「他人に左右されるな!」に電気が走った。

●『ショーシャンクの空に』(9)
無実で刑務所に収監された主人公アンディは、その温厚で誠実な人柄で、所内
の粗野な囚人たちの心に変化をもたらす。ある時、アンディは放送室を占拠して、
モーツァルトの美しいアリア(byフィガロの結婚)を全房へ大音量で流す。囚人の
1人(モーガン・フリーマン)はこう呟く--“胸を刺すほどのえも言われぬ美しさ。
歌声ははるか高く天の彼方に舞い上がっていった。美しい鳥が舞い込み牢の塀
を消し去ったのだ。その束の間、すべての囚人が自由を味わった”。このアンディ
の行為に激怒した看守たちは彼を懲罰房に放り込む。2週間後、房から出て来た
彼に仲間たちは尋ねる。「よお音楽家。穴蔵生活はどうだった?」「楽だった」
「嘘つけ。あそこは地獄。1週間が1年だ」「モーツァルトがいたから寂しくない」
「懲罰房に蓄音機を?」「(頭と胸を指差し)ここと、ここにだ。…それが音楽の
力。誰にも奪えない」。すごい脚本だ。

●『西部戦線異状なし』(8)
74年前(1930年)に作られた反戦映画。第1次世界大戦に出征したドイツ兵の
若者ポールが主人公だ。補給が途絶えた飢餓状態の中、戦友が砲撃の恐怖から
発狂する姿や、多くの無残な死に直面し、身も心もズタズタになっていくポール。
彼ら最前線の兵士たちは語り合う「一体、なぜ戦争が?」「国が国を侮辱して…」
「ドイツの山がフランスの山を侮辱したのか?」「山じゃなくて人間だよ」「俺は
侮辱された覚えはないぜ」「誰かが戦争をしたがったんだ」「誰かが得をしている」
「皇帝以上の得はないぜ。戦争をすれば歴史に名が残るじゃないか」「将軍たち
も」「武器商人には金がたんまり」「…そうだ、こうすりゃいい。まず野原をロープ
で囲み、囲いの中へ各国の王様や大臣たちを集め、裸にしてケンカをさせる。
それで勝敗を決めるんだ!」「イエー」。この映画は10年後に勃発する第二次
世界大戦を止める事は出来なかった。しかし、個人的には憎くもない相手を、
生まれた国が違うという理由で殺すことの狂気(ポールは自分が刺し殺した敵兵
が持っていた妻子の写真を見て絶句し、嗚咽する)を描いた意味は非常に
大きい。行軍する若い兵士たちと、視界の彼方まで続く無数の十字架が重なっ
ていくラストカットが、胸を締め付けた。※ポールに待ち受けている運命について
は映画を見てほしい。

●『ホット・ロック』(7)
ダイヤ泥棒たちの知能バトル。先の読めない展開で全く退屈しない。催眠術の
合言葉「アフガニスタン・バナナスタンド」の響きが頭から離れない(笑)。

●『いまを生きる』(7)
食べたり寝たりは他の動物もやってる。“人間だからこそ詩や芸術を生み出す”
っていう次のセリフにジーンときた。「我々はなぜ詩を読み書くのか。それは
我々が人間であるからだ。情熱にあふれた存在だからだ。医学、法律、経済、
工学、それらは生活を支える尊い仕事だ。だが、詩や美しさ、愛は我々の
生きる糧だ!」。

●『陽のあたる教室』(7)
人件費削減のために学校側から解雇を告げられた老音楽教師が、校長や市議
にかけあう場面がいい。「モーツァルトと国語や算数を選択するなら私は算数を
残す」と校長。「美術や音楽をカットするがいい。知的な楽しみの無い人間が
育つ」。「予算がない。時代が変わったのです」と市議。「今の時代は教育がより
一層重要なのだ。あんた達は問題を真剣に考えていない」「あなたは財政難を
分かっていないから…」「よしてくれ!次の世代の子どもたちが、ものを考えず、
ものを創り出せなくなったら?」「我々は最善の努力をしたのです」「最善が
聞いて呆れる!」まったくその通り!また、本作には音楽の魅力について語る
こんなセリフもあった。「15歳の頃の僕はレコード屋に入り浸り、顔なじみに
なった店員が“これはどう”と1枚のレコードを薦めてくれた--ジャズ(サックス)
のジョン・コルトレーンだった。うちに帰ってそれを聞いた。ダメだった、全然
ダメだった。さっぱり分からなかった。悔しくて、また聞いた。何度も何度も
繰り返して聞いた。そのうち--やめられなくなった。あのサウンドを聞き続けて
--僕はこう思った。“僕が求めているのはこれだ。これで人生を生きよう。音楽
をつくろう”」。こうして主人公は作曲家を目指す。人々に受け継がれる芸術作品
には、その良さが最初は分からなくても、絶対にやみつきになる強烈な魅力が
隠されているッ!


以上です!!映画ばんざい!!o(^o^)o

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