カジポン・タイムズNO.108 ★2001年シネマ閻魔帳 今年もシネマ閻魔帳の季節がやってまいりました! 昨秋から今秋にかけて、僕が観た映画に“独断と偏見”で点数&コメントを付けます。(10点満点) 今回対象になったのは73作品。嗚呼、なんという恐れ多い、傲慢な、しかし快感に満ちた企画だろうか(ふるふるふる…)。 まだ観てない人の為に、推理映画の犯人やドンデン返しについては触れませんが、予告編やCMでガンガン使われたり、本筋に直接関係なく触れても問題ないと判断したシーンにはコメントします。 6点以上は、オススメしたい作品。まずハズレはないです! 《本年公開の最新作19本》 ●ジュラシック・パーク3(5)最初からストーリーに全く期待してなかったので、それは批判対象にはならず。むしろT-REXが登場しなかったことに怒りを感じた。シリーズの主役が出なくてどうするのさ!?ただ、初めて翼竜が登場し、高所の怖さを味わえたのはGOOD。 ●パール・ハーバー(3)ドラマなし。音楽でかすぎ。女優人、誰も看護婦に見えず。得点の3点はすべて奇襲シーンの映像に。爆弾が甲板突き破って船蔵に落ちる場面や、足元を魚雷が通過する場面は本気で肝を冷やした。洗濯物とゼロ戦の組合わせも、構図的に斬新かつリアルだった。 ●キャスト・アウェイ(7)遭難前は他人に情愛をもって接しなかった主人公が、只のバレーボールのために号泣する…この脚本には泣く!ハンクスの減量25kgもアッパレ。島に着いてからBGMが一切ないの が良かった。この作品にヒネリやオチは不要。そういう映画ではないと思う。(夜の鯨のシーンには思わず喚声をあげた) ●ペイ・フォワード(2)怒!肝心のペイ・フォワード(親切の先手)そのものが劇中に殆ど描かれていない。第一、親子間でやるペイ・フォワードは当り前のことで、そんなものペイ・フォワード以前。あのラストも必然性がなく納得いかん!得点の2点は、幸(さち)薄そうなオスメント君の表情と、ホームレス役ジム・カヴィーゼルの透明な瞳に1点ずつ。 ●千と千尋の神隠し(8)物語うんぬんではなく、観ている間の心地良さは得も言われぬものがあった。もう4時間でも5時間でも、あの世界に浸っていたい感じ。クライマックスがなかったことに、不満どころか逆に監督の朴直さ、真摯さを感じた。興行収入史上最高の260億円は神隠しではなく、まさに神がかり。 ●カウボーイ・ビバップ/天国の扉(7)玄人好みのアニメ。小粋かつ地味。映像のクオリティは最高峰。しかし、あの燃えまくるTVシリーズのオープニング曲が使われなかったことで、ファンのストレスは極大か。僕はビデオが出たら編集してOP曲を絶対に入替えてやる。そしたら9点。大甘?でもこの手のシブい作品は絶滅寸前だから応援しなくちゃ。 ●バトルロワイアル特別編(6)BR法そのものに全く説得力がなく、せっかく盛り上がってたハッカー軍団もあの展開になったので、本当はお灸を据える意味で3点位が妥当かもしれない。だが、作品を観もせず命を玩具にしてると批判してた連中に抗議の意味を込めて6点。実際、登場人物の多くは殺人狂ではなく、“どうすれば戦わずに皆で生き延びられるか”を懸命に模索していた。明らかに命の尊さの方を強調してる作品だ。正当に評価すべし。 ●トラフィック(9)派手な見せ場がない淡々とした犯罪ドラマ。それでいてこの高得点。麻薬問題を巡って3つの物語が同時進行し、それぞれが全く別作品のように撮影されており驚いた。麻薬汚染がテーマになっているが説教臭さはなく、それでいて良心の奥底に響くものがある素晴らしい脚本だった(ラストシーンの静かな余韻は一週間続いた!)。とにかく登場する全俳優の演技がうまい。中でもオスカーを獲ったベニシオ・デル・トロは立ってるだけで存在感がある10年に1人の逸材だ。 ●リトル・ダンサー(8)親父さんの涙だけで8点。最後にアダム・クーパーがもっとグルグル踊っていれば無条件で10点だった。 ●アンブレイカブル(0)出た!零点!この作品の脚本が史上最高の5億円だなんてアンビリーバブル。“シックス・センスを上回る衝撃”というコピーを付けた者、その狼藉ぶり許し難い。不死身の身体、その奇跡の納得いく説明がないまま透視能力まで出てきて、展開の強引さに呆然とした。すべてが明かされた後も“で、だから?”という身も蓋もない状態だった。 ●ギャラクシー・クエスト(10)まさか、本年度公開作品でこのおバカSFコメディーがTOPに輝くとは。自分で満点をつけておいて、動揺を隠せない。物語は「かつて大人気SF番組に出演していたが現在は落ち目の役者たちが、異星人同士の本物の宇宙戦争に巻き込まれていく」という破天荒なもの。笑いあり、涙あり、アクションありで、見終わった後、思わずスタンディング・オベーションをした!ク〜ッ、映画ファンやってて良かった! ●スターリングラード(7)露VS独の狙撃手同士の戦い。罠の張り合いに緊張した。スコープから覗く映像が続き、胃がキリキリしたよ。冒頭で主人公が軍用列車でスターリングラードに着くんだけど、もう街が炎上しちゃってて、映画って分かっていながら「ここにだけは降りたくない」とマジで思った。ジュード・ロウはいい役者だね。 ●スナッチ(9)登場人物の多いこと多いこと。しかも大量の伏線を張りながら物語を最後まで破綻させず、見事にまとめあげたガイ・リッチーの才能はさすが。前作「ロック、ストック…」のファンは辛口の評価をしているが、タランティーノが鳴かず飛ばずの今、複雑なシナリオを軽いテイストで表現できるのは彼くらいでは?この高得点作品に、またしてもデル・トロ君が出演。ブラピおいし過ぎ。 ●ザ・ダイバー(3)主演の2人の演技は上手かったが、上映前&上映後を比べて、僕の中でまったく何も変化なし。 ●タイタンズを忘れない(6)人種混合学生アメフト・チーム感動の実話。飛行機の中で観た。隣席の黒人青年が号泣して、こちらももらい号泣。オール白人チームに対し、「俺たちは違いがあるから強い」と団結するところにグッときた。 ●ハート・オブ・ウーマン(6)M・ギブソンがある日突然、全女性の心の声が聞こえるようになるというトンデモ設定の映画。メルが“俺はモテてる”と思っていたら、実は心の中では「男尊女卑のブタ」と呼ばれてたという、すごい脚本だった。フェミニスト系のHPで絶賛された作品だ。(メルのパンスト、マニキュア姿はハッキリ言って汚い) ●処刑人(8)撃って撃って撃ちまくりの映画。法で裁けぬ悪党どもに死の制裁を加えるハイテンション兄弟の物語だ。僕は基本的に死刑制度には反対だし、犯罪者を裁判抜きであの世に送るなんてもってのほかだと思っているが、この作品の爽快さ、あれは何なのだろう!?兄弟を追うFBI捜査官はウィレム・デフォーなんだけど、彼もまたブチ切れ系のキャラで、後半の物語の展開がえらいことに。続編希望!! ★以下の2作『ダンサー・イン・ザ・ダーク』9点、『A.I.』8点は、ラストを語らねばコメント不能。未見の人は読まずに飛ばして下さい! ●ダンサー・イン・ザ・ダーク(9)…近年、これほど賛否両論の嵐を巻き起こした作品は他にないのではないか。僕は圧倒的に“賛”だ(以下、もろに内容に触れるので未見の人は読まないで)。この作品を否定する意見は、主人公の選択が納得できないというのが殆どだ。そして、彼女を愚かな母親だという。とんでもない!死者との約束を破れば良かったのか?僕はあんな男との約束であるにもかかわらず、それを守ってしまうのがセルマのセルマたる由縁であり、その「純粋さ」を無垢という理由で非難したくない。また、あのラストを見て“彼女は不幸だ”と決め付けるのはどうかと思う。彼女にとって人生最大の目標であり、それ以外は重要ではないとまで思っていた息子の手術が成功したわけで、その意味ではハッピーエンドだ。要は、誰のモノサシで幸福を決めるかということだ。彼女を憐れむというのは、自分の幸福のモノサシを彼女に押し付ける傲慢なことだと思う。 ストーリー以外の演出も見事で、通常場面から各ミュージカル場面になだれ込んで行く過程があまりに自然で、映画を見ているのではなく、本当に主人公の脳内を覗いているようだった。日常の生活音すべてがリズムに成り得ることを教えられた。工場のシーンのダンスは最高だし、汽車のシーンは低音で響く鉄橋の音に深い精神性をたたえた歌詞が融合し、呼吸困難になるほど感動した。特に終盤の『107ステップ』は、あの状況に音楽が付くとは想像だにしなかったので、めちゃくちゃ鳥肌が立った! ●A.I.(8)…これも未見の人は読まないで。人間であろうとロボットであろうと愛は本物。だから人間はロボットから受けた愛情に対しても愛を返す責任がある。スピルバーグは「自己満足の為の一方的な愛」ではなく、「答える愛」の重要性を必死で訴えていたように思う。この作品で監督は、ジゴロ・ジョーの「最終的には俺達ロボットが生き残る」という予言通りに人類を絶滅させてしまった。今の我々の独善的な愛では、あと2千年ももたないというのだ。監督はここまで追い詰められるほど、現代の人間関係の歪んだ愛と荒涼感を危惧しているのだろう(ラストのロボットを宇宙人と思ってる人がいるけど、ロボットの設定だからね)。 それにしても、なんという物悲しい「ハッピーエンド」か。デイヴィッドは一番求めてたいたものを得て、十分に満足したあと眠って(死んで)しまった。そして観客は“奇跡”が起こったことを知る…人間になれたという。死をこのように“奇跡”として描いた作品が、かつてあっただろうか。苦しみから逃れる為の自殺ではない、全く新しい形での「恩寵としての死」が描かれたのは特筆すべきことだ。キューブリックの人物を突き放した感覚とスピルバーグの優しさが結合した見事なラストだった。 映像的にもルージュ・シティの光の洪水、2千年後の氷世界の広大なスケール感は見事だった。各セットの洗練されたデザインは、キューブリックが残した100枚に及ぶ絵コンテを忠実に再現しているとのことだ。僕はマザーグースやグリム童話がけっこう好きなので、こうしたおとぎ話の残酷さと寓話の知性とをミックスした作品は大OKだ。人類が完全に絶滅する映画は、A.I.以外だと洋画で3本(「渚にて」他)、 邦画は2本しかない。案外、派手好みのハリウッドの連中も、そこまでは踏み込めないのかも。(あと、髪の毛を持ってたテディ・ベアに1点追加。っていうか、玩具なのに作品中で最も知能が発達してた気がするんだけど…) ★比較的新作(2000年公開)19本 ●U-571(6)…反戦思想のカケラも出てこず、「上官は神と思え」みたいな危険オーラがプンプン漂っているアブナイ作品だが、ドイツ兵を「悪の軍団」「ただの動く標的」として割り切れば、次から次へと危機また危機の、よく凝り練られた台本を楽しめる。 ●ホワット・ライズ・ビニーズ(0)今回2本目の零点。ゼメキス監督がキャスト・アウェイでトム・ハンクスが減量してる間に撮った作品。ハリソン・フォードがハッスルしてたので(よくあの大物がこの役を引き受けた)、もう少し点をあげてもいいかもしれんが、前半1時間がまったく無意味だったのは最悪!後半にリンクせず、何の伏線にもならぬただのドッキリを、1時間も見せられたこの怒りをどうしてくれよう! ●ストレイト・ストーリー(10)おじいさんがトラクターでアイオワ州を横断するロードムービー。乗用車ではなく畑のトラクターなのがミソ。移動スピードが短いので映画の展開が遅いが、それこそがこの作品の魅力!農村の風景がゆっくりと画面を横切っていく心地良さは格別。登場する人間は素朴で温か味のある人物ばかり。旅の目的が喧嘩した相手との和解というのもいい。優しい気持になれる10点作品だ。 ●初恋のきた道(8)ヒロインの顔面アップの嵐。それも、これ見よがしのスローモーションでのアップ。乙女時代の57分間で執拗に繰り返されたアップは27回!しかも、会話シーンのアップを除いて、この回数だ。おそらく映画史上最多だろう。イーモウ監督の彼女への惚れ込みように、僕はついていけなかった。が、この高得点!すべて中国の雄大な自然風景と、美味しそうなキノコ餃子が獲得したもの。彼女の積極的なアタック作戦は、かつて僕がストーカー扱いされて玉砕したものばかり。この映画は嘘をついている。あえて言おう。失恋に終わらぬ初恋は真実の恋にあらず!初恋は玉砕してなんぼよ! ●グリーンマイル(5)子供を殺した殺人鬼と極悪看守の2人に腹が立ちすぎて、感動しそびれた。 ●パトリオット(7)アメリカ独立戦争の歴史大作。ベトナム戦争や第2次大戦を題材にした作品は多いが独立戦争を題材にしたものは珍しい。当時の戦争は、銃の命中精度が悪く威力も弱かったので、射撃の際はお互いの兵士の表情が分かる位まで接近して行われた。画面の奥まで一列に並んだ両軍の兵士が、すぐ側で直立したまま撃ち合う姿は凄惨だった。 ●チャーリーズ・エンジェル(6)こういう、頭をカラッポにして楽しめる脳天気なアクションものって重宝したい。BGMがノリノリで良かった。 ●スペース・カウボーイ(7)老宇宙飛行士たちが、お互いに皮肉や嫌味を言いながらも、どれだけ相手を心底から信頼しているかが、言葉の端々からにじみ出ていた。実に心憎い脚本だ。オチも良い。 ●グリーン・デスティニー(5)竹やぶ、水流など映像は美しい。バトルシーンも動きが良い。問題はまったく燃えようのないストーリー。そしてラストは頭が真っ白に。 ●グラディエーター(7)冒頭のゲルマン討伐戦のド迫力は仰天もの。古代ローマ、コロッセオの大観衆の熱気もすごかった。まさにスペクタクル映画って感じ。 ●あの子を探して(7)山村の小学校を舞台にした13才の先生の奮闘記。子供が子供に教えている構図で、見ているこちらがハラハラした(笑)。2本のコーラをクラス全員で飲むシーンがとてもほのぼのしてて良かった。すごくラストの後味がいいのでオススメ。というか、あのラストを撮る為にこの映画が企画されたのではと思うくらいだ。 ●エリン・ブロコビッチ(7)悪徳巨大資本に戦いを挑む物語。実話ってのにびっくり。ジュリア・ロバーツは段々良い顔になってきたね。 ●シャンハイ・ヌーン(5)ジャッキーが頑張る。牢屋の脱獄シーンは笑った。しかし、あのアメリカ先住民族の御都合演出はイエローカード。 ●ヒマラヤ杉に降る雪(6)イーサン・ホークの抑え気味の演技が良い。工藤由貴って国内より海外の方が知名度あるのかも。それにしても寒々とした町だった。 ●インサイダー(9)この作品は、近年稀に見る硬派な社会派サスペンスの傑作だ。タバコの有害性をタバコ会社の社員が内部告発し、企業側があらゆる方法で彼を脅迫するという内容(実話)で、企業、マスコミ、人物、そのすべてが実名ってのがすごい。ラッセル・クロウの鬼気迫る演技は見もの。こういう作品がハリウッド資本で作られることに、アメリカ社会の良心を感じる。アル・パチーノも好演。 ●マルコヴィッチの穴(6)後半もっと面白く出来たはず。アイデアが良かっただけにもったいない。 ●ファンタジア2000(5)最初の鯨の大群に超エキサイト!しかしその後は徐々にあくびが。第1作には遠く及ばず。 ●人狼(3)劇画調のリアルな作画に感心した。しかし、どうしてこの作品を作りたかったのかという、作り手のメッセージが何も伝わってこんかった。雰囲気を楽しんで欲しかっただけなのか?(邦画) ●老人と海(アニメ)(9)筆を使わず指先で絵を描いてる製作風景を見て、画中の輪郭や色彩の柔らかさを納得した。オスカーのアニメ部門を受賞するだけのことはある。実写よりリアルな海に驚嘆した。 ★1999年公開作品9本 ●運動靴と赤い金魚(10)「友だちのうちはどこ?」もそうだけど、イランって国は子供を撮るのがほんと上手い!この作品の兄妹なんかカメラが回ってるの知ってるの?って思うくらい自然体だった。妹の靴を無くしたお兄ちゃんが、何とか靴を手に入れようと孤軍奮闘する物語。手に汗握るクライマックスも用意されていて、文句なしの10点満点だ。外に出るとちっちゃくなる、親父さんの内弁慶ぶりが微笑ましい。この記事を読み終えたら財布持ってレンタル店にダッシュすべし! ●オースティン・パワーズDX(1)テントの影絵シーンしか笑えなかった。パート1はあんなに面白かったのに。期待しすぎたのかな。 ●200本のたばこ(6)ファンキーなタクシーの運ちゃんが良かった。「運命にイエスといえ!」は、かなりハートにきた。登場人物がみんな精一杯生きてるのは見てて気持良い。 ●バンディッツ(9)なんちゅうイキのいい映画だ!タイトルの意味は“悪党ども”。男が観てもシビれる、4人のタフな女たちの友情ムービーだ。脱獄囚ロック・バンドという設定が斬新。ドラム役のエマのクールさに僕はイチコロ。97年のドイツ映画だ。この傑作を4年間も見逃していたことを猛省。「テルマ&ルイーズ」「オ−ル・アバウト・マイ・マザー」と並ぶ、三大傑作女性映画の1本として推す。 ●π(パイ)(3)オープニングは映画史に残るカッコ良さ!以上! ●ナビィの恋(9)「オジィは若いから大丈夫!」もうオバァ最高。カメラが自然の風景に融け込んでいて、映画を観ている2時間の間、自分も沖縄の明るい陽射に照らされている気がした。沖縄の家屋は開放的でいい。すべて分かってて黙ってるオジィがたまらん。 ●ウェイクアップ・ネッド!(7)アイルランドの片田舎で起こった宝くじ事件のコメディだ。12億円をめぐる珍騒動はハラハラドキドキ。電話BOXのアレは痛快すぎ。 ●季節の中で(7)ベトナムでロケ、役者はベトナム人、セリフもベトナム語という作品だが、これはれっきとしたアメリカ映画で、まずそこに驚いた。ベトナム戦争から四半世紀を経て、ようやく両国が映画という芸術で結びついたわけだ。シクロ(自転車タクシー)の運転手、花売り娘、ストリート・チルドレン、娼婦、元米兵、それぞれの生き様がホーチミン市(旧サイゴン)を舞台に描かれ、複数の良質なエピソードが同時進行で出てくる。特に物静かなシクロの運転手は、観終った後も優しい瞳が心に焼き付いて離れない。蓮の花を摘む花売り娘の映像がすごく詩情豊かで、この作品全体の雰囲気を俗気のない美しいものにしていた。 ●地雷を踏んだらサヨウナラ(7)カンボジアの現地ロケが作品にリアリティを与えている。アンコールワットが眼前に広がった時、主人公と同様、僕も画面の前で息を呑んで固まった。浅野忠信は朴とつとした話し方なのに存在感が抜群。彼は今の日本映画界の宝だね。 ★1998年以前23本 ●司祭(7)苦悩する同性愛の司祭を描いたことで、欧米ではカトリック教会から上映禁止の圧力を受けた問題作だ。ローマ法王が抗議の声明文を寄せたため、さらに騒ぎが大きくなった。しかしこの映画を冷静に見ると、キリスト教を冒涜しているどころか、キリスト教の「寛容の愛」を訴えた、とても誠実な姿勢の作品だと感じたが。第一、全ての人の心を平等に救うはずのキリスト教が、その名のもとに異端者(同性愛者)を差別してどうするのだ?監督は女性なので客観的な立場からこのシチュエーションの作品を作れたと思う。 ●BARに灯ともる頃(5)今は亡きイル・ポスティーノの男優とマストロヤンニが共演してると聞いて、即レンタルした。目新しいものはない普通の父子のドラマだったが、大衆食堂で向かい合って食事をするシーンで、老いた父の額のシワや白髪のアップが、息子の視線で挿入される場面があった。短いカットだが、胸に沁みるシーンだった。 ●ドクター・ドリトル(2)動物の会話が分かるというネタは面白いが、それを物語にいかしきってない。ムツゴロウ番組と大差なし。 ●奇跡の海(4)なんだろう…このダンサー・イン・ザ・ダークのセルマを許せてこの作品のベスを許せない感覚。とにかく、ヒロインの暴走機関車ぶりにヘトヘトになった2時間39分だった(拷問の要素すら混じってた)。全然関係ないけど、エミリー・ワトソンとゲーリー・オールドマンは顔がそっくり。 ●ぼくのバラ色の人生(4)女の子になるのが夢という少年が主人公。映画の宣伝文がすごいのなんの。「大感動作品の誕生!各国の映画祭でグランプリを多数受賞し、立ち上がっていつまでも拍手をやめない人、涙ぐんでいる人、その場で踊りだす人、映画館は涙と拍手の渦!」って、この踊りだす人はちょっと違うと思う。名作というより怪作の部類だ。 ●エビータ(7)公開時に劇場で観た時は、アルゼンチンの軍事政権史もゲバラのこともよく知らずに観てイマイチだと思ったが、最近ビデオで再見して、エビータの夫ペロンを英雄としてのみ描くのではなく、民衆の弾圧者という影の部分まできっちり描いてることに感心した。シリアスな歌詞と親しみやすいメロディーのアンバランスが功を奏している。 ●永遠と一日(5)アンゲロプロス監督の文芸映画に「退屈」という2文字使うことは、文芸研究家としてのキャリアを自分で墓場に葬るようなものだ。評論家先生の多くは大絶賛しているのだから。ゆえに「退屈」という言葉だけは絶対に書けない。が、僕がタイトルをつけるなら「永遠の2時間」にする。リトマス試験紙のような映画だ。 ●ブルガサリ(6)な、な、なんと北朝鮮の怪獣映画だ。鉄を食べると大きくなる怪獣ブルガサリを鍛冶屋の娘が手なずけて、圧政で民衆を苦しめる凶悪皇帝を打ち倒す物語だ。この作品がすごいのは皇帝をやっつけた後。民衆が皇帝から解放されたのはいいが、怪獣はまだ大きくなり続ける。腹を空かす怪獣の為に民衆は鉄を用意するが、きりがない。しまいには大切なクワ(農具)や、日々の生活にかかせない鍋まで差し出すはめになってゆく…。鋭い人はこれが誰のことを皮肉っているか分かるだろう。現在この監督は亡命して米国に住んでいる。もちろんこの作品は北朝鮮では未公開だ。 ●ワンス・アポン・ア・チャイナ天地大乱(7)カンフー・アクションファンの間でなかば伝説化している作品。ものすごく無理な姿勢で人が闘い続ける。飛んだり跳ねたり大忙しで、バトルスピードは全格闘映画の中で、最高速ではなかろうか。とにかく大技の嵐。 ●ラテンアメリカ光と影の詩(6)雪に閉ざされた南米最南端のウスワイアからメキシコ・カリブ海までのロードムービー(なんとチャリンコ)。貧困に喘ぎながらも、日々をたくましく生きる南米各地の人々が登場する。治安の悪い各地のロケで監督は製作中に銃撃され、カンヌ映画祭に松葉づえ姿で登場した。音楽を担当したのはピアソラで、彼にとってはこのサントラが遺作となった。 ●キャラクター孤独な人の肖像(7)「逆境こそが人を鍛える」という人生哲学で、徹底的に息子の人生を妨害する父親の物語。こういう形で愛されると、子供としては愛よりも憎しみが先に来るのも仕方ない。大きくなってからでないと、あれが愛だったとはなかなか気付かないよね。オスカーの外国語映画賞をゲットしたオランダの愛憎映画だ。 ●スウィート・ヒアアフター(3)面白くなかった。それに尽きる。カンヌでグランプリを獲ってるし、宣伝文句が「ラストの衝撃の事実にあなたは驚愕する!」だったので、気合いを入れて画面の前で正座して観た。だが、観終わったあと、どの事実に衝撃を“受けるべき”だったのかを考える有り様。駄作ではないが2時間を返して欲しい。 ●クイック&デッド(7)ジーン・ハックマン、ラッセル・クロウ、シャロン・ストーン、デカプリオという、今やギャラが高騰して絶対に揃えられないメンツで作られた西部劇だ。シリアスな場面がコミカルな映像で演出される妙なアンバランスさが作品の魅力になっている。撃たれる事を“胸に風穴が開く”というが、この映画では本当に穴が開いて向こうが見えちゃう。シャロンがこの作品で一番カッコ良い。 ●ムーラン(4)書かれた漢字がまるで生きてるかのように動く描写はすごかった。 ●打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?(9)わずか45分の短編だが、一度見たら血肉と化し、生涯覚えているであろう作品だ。映画は必ずしも2時間にしなくとも、傑作を作ることが出来るのだという好例。子供たちの人物描写のみずみずしさに脱帽!(邦画) ●サルバドル(10)メッセージ性とエンターテイメント性を見事に両立させた10点満点の傑作。アメリカの中米政策の矛盾を、よくぞここまで踏み込んで映像化したと思う。ロメロ大司教暗殺のシーンは何度観ても背筋が寒くなる。CIAの圧力にめげず撮影を敢行した、命知らずのオリバー・ストーンに拍手。 ●ジャッカルの日(7)フランス映画の傑作サスペンス。犯人を追う刑事がごく普通の中年おじさんの風体で、それがイーストウッドやM・ギブソンなど米映画のスーパーデカを見慣れた目には新鮮だった。 ●ジャッカル(2)仏映画「ジャッカルの日」のハリウッド版リメイク。ブルース・ウィリス&リチャード・ギアとキャストは豪華だが、仏版の息詰まる頭脳戦と違って、こちらはただのドンパチ。しかも犯人役は超トンマ。原作侮辱罪で零点でも良かったが、脇役のロシアの女傑少佐が素晴らしい演技だったので、彼女に2点。 ●ホワイトナイツ(3)バリシニコフがバッハのパッサカリアに乗せて踊る冒頭5分の「死のダンス」が最大の見せ場。あとの2時間11分はおまけ。 ●ビートル・ジュース(7)優しい幽霊対デリカシーのない人間、という構図が何ともユニーク。M・キートン、ウィノナ・ライダー、ジーナ・デイビス、A・ボールドウィンという豪華キャスト(全員ブレイク前)が、ティム・バートンの手でゴースト・メイク地獄に。その意味でも貴重な作品だ。 ●金日成のパレード(8)これは88年の北朝鮮建国40周年記念式典の100万人大パレードの記録映像だ。“赤い王朝”というサブタイトルが言いえて妙。視界の彼方まで画面を埋め尽くした人民が、一斉に偉大なる首領様の前でマスゲームを踊る姿に、戦慄、笑い、感動の三種の気持が同時に僕を襲った。 ●霧に包まれたハリネズミ(8)露の孤高のアニメ作家ユーリ・ノルシュテインの1975年の作品。奥深い霧の映像表現が驚異的。画面に水滴が点きそうだった。 ●眼下の敵(9)“潜水艦映画にハズレなし”というのが映画ファンの通説だが、その言葉を裏付ける傑作。米兵も独兵も、共に戦争の愚かさを語り、敵の血を見て喜ぶような演出はない。ラストの両軍の指揮官同士の会話は映画史上に残る名シーンかと。1957年公開。終戦から12年目でハリウッドは憎悪を克服した。 ★かなり古い作品、っていうか白黒3本 ●我等の生涯の最良の年(6)勝ち戦の第2次大戦でも、米兵の心に戦争後遺症が残っていたことを知った。 ●モンパルナスの灯(6)ジェラール・フィリップのモジリアニはずばりハマリ役。線の細さが芸術家の繊細な神経を体現していた。似顔絵を持って盛り場をさまようシーンはモジリアニの魂が乗り移ったかのような生々しさがあった。それにもかかわらず6点どまりなのは、作品中で恋人ジャンヌの後追い自殺が描かれなかったことだ。これでは、彼女の触れれば火傷しそうな狂恋が伝わらない。最低でも後日談として字幕で説明するべきだった。意図的に事実を封印しているとしか思えない。こんなのタコ焼きを作っていながらタコを入れ忘れたのと同じ。 ●山椒太夫(9)さすがは世界の溝口!実に格調高い名作だった。約50年前の作品だが、後半3分の1の怒涛の展開は、最近のハリウッド映画なんかより遥かに燃える!厨子王に好感! 『或る芸術作品に関する意見がまちまちであることは、ともなおさず、その作品が斬新かつ複雑で、生命力に溢れていることを意味している』 by オスカー・ワイルド |
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