カジポン・タイムズNO.174

●写真集『百年の愚行』はおすすめ! (発行/Think the Earthプロジェクト) 

「無知というのは受動的な態度ではない。知らないでいることを自ら積極的に選んでいるのだ」(ダニエル・バレンボイム)ユダヤ人指揮者
「我々は子孫の財産を奪って放蕩にふけっている」(池澤夏樹)作家

これは20世紀に人類が地球環境と自分自身に対して及ぼした愚行を、世界中のフォト・ジャーナリストが撮影したものを100枚集めた一冊だ。全体は“水”“大気”“大地”“動物”“大量生産・大量消費”“テクノロジー”“差別・迫害”“戦争”“難民”“貧困”という10個の項目で構成されている。とにかくもう、ページをめくる度に気持ちがドンドン落ち込んでいく写真集だが、どれもこれも紛れもない事実である以上、そこから目をそらすわけにはいかない。
100枚の中で強く印象に残ったのは以下の5枚。

・『収穫量が“多過ぎて”投棄されたトマト』
飢餓に苦しむ人間がいる一方で、豊作だったトマトが市場に溢れ値崩れすることを防ぐ為に、大量に投棄された光景。
・『米国資本の農薬工場から猛毒ガスが漏れ、付近の住民(もちろん子供達も)1万6千人が死亡』
1984年にインドで起きた死者1万6千人という、史上最悪の化学工場事故。写真は少女の埋葬場面だ。
・『日本軍による空襲後の上海』
上海市民を襲った無差別爆撃。“大陸で日本軍が処刑したのは市民に変装した敵兵”という意見は、ここでは全く通用しない。
・『爆撃機B29による爆弾の雨(神戸)』
神戸の上空に降り注ぐ“爆弾の雨”。米軍機から撮影されたもの。大地の上に爆弾が見えるというより、爆弾の隙間から地上が見えるという戦慄の1枚。
・『マイダネク絶滅収容所のガス室』
ナチスがユダヤ人や政治犯、同性愛者を“大量かつ迅速に”処刑する為に設置したガス室。この本には実際に殺されたユダヤの人々の写真も掲載されているが、この無人のガランとした室内を写した1枚は、この中でどれほどの地獄があったのかを見る者に想像させ、底なしの恐怖を味わった。断末魔の叫びが聞こえてきそうだ。

この本には写真だけではなく、宇宙物理学者や文化人類学者ら、識者によるコラムも多く掲載されている。ロシアとドイツの2人の宇宙飛行士の次の言葉が胸に響いた。
「宇宙から見ると、私たちの惑星は“地球”というよりも“水球”といった方がふさわしいと分かる。乾いたケシ粒のような島々に、人や動物や小鳥が何とか住む場所を見つけている。それは驚きだった」(アリョーグ・マカロフ)
「生まれて初めて私は水平線が丸くカーブしているのを見た。そのカーブを強調していたのが、濃く青い光の細い筋。それこそ地球を取り巻く大気だった。これは私が今までさんざん聞かされてきたような、果てしなく広がる空気の層ではなかった。私はその頼りない外見に“戦慄”を覚えた」(ウルフ・マーボルト)

※値段は写真集なので2400円とチョット高め。
発行してるThink the EarthプロジェクトはNPO(発起人は坂本龍一やベネトン)で、“環境と経済の共存”をテーマに活動しており、売上金の一部が環境保護運動の支援活動に使われるとのこと。


《この本に書かれていた最新統計からいくつかをピックアップ》

・2000年度の世界全体の軍事費約8千億ドル(約95兆円)、うち4割が米軍。

・チェルノブイリの事故で2000年4月までに亡くなったのは5万5千人。そのうち約2万人は自殺。

・国際赤十字によると、地球上では毎日約70人が地雷の犠牲になっている(20分に1人)。近年の反地雷キャンペーンに後押しされ、年間に10万個の地雷が撤去されているが、地雷は1億個ほど埋まっており、このペースでは完全撤去に1000年かかる。地雷撤去は完全に手作業の為、撤去中の死者は年間60名にのぼっている。
(一方、最新の地雷散布マシーンは1分間に千個の地雷を設置可能だ)

・毎年、森林伐採と焼畑で消滅していく熱帯林の面積は、実に北海道&四国&九州の面積に匹敵する。

・薬品の不足から伝染病で死んでゆく子供は1日3万人。

・加速する消費欲--消費は中毒。瞬間の快楽と幸福は違う。

・「第三世界」と「先進国」の生活格差は信じ難いほど大きい。ユニセフによれば世界人口の32%が1日1ドル以下の生活をしている。

最後に『百年の愚行』の帯から---
「認めない訳にはいかないだろう、これは私達人間の自画像なのだ」
「本書は人類がどこかで根本的に間違えていたこと、生命の秩序を裏切ってすらいたという証拠を、私たちの喉元に突き付けるナイフだ」


●カジポン編集版『世界がもし100人の村だったら』

上記の『百年の愚行』を読んで、貧富の差こそが最も深刻な問題だと思い、昨年暮に発売されベストセラーとなった『世界がもし100人の村だったら』をあらためて手にとってみた。この本はもともと新聞投稿がメールとして流れ、さらにそれが製本化されたもの。原文の新聞投稿が’90年のものでデータが古かった為、製本化の際に数字が新しいものに入れ替わった。
しかし、原文にあった文章が一部カットされていたので、それを復元してここに紹介したい。あわせて僕が重要と感じた部分を抜粋、再構成した。(対訳は池田香代子さんのものを基本にしてます)
※原文を書いたのはドネラ・メドウズ(米ダートマス大学教授、環境学者)。彼女は昨年2月に59歳で亡くなった。


この100人の村には
61人のアジア人
13人のアフリカ人
12人のヨーロッパ人
8人のラテンアメリカ人
5人のアメリカ人
1人のオーストラリア人がいます

70人が有色人種で
30人が白人 

17人が中国語をしゃべり
9人は英語
8人はヒンドゥー語
6人はスペイン語
同じく6人はロシア語
4人はアラビア語をしゃべります
これで村人の半分です。あとは多い順にベンガル語、ポルトガル語、
インドネシア語、日本語、ドイツ語、フランス語、以下200もの言語が
あります

30人がキリスト教を信じ(うち18人がカトリック、8人がプロテスタント、
3人がギリシャ正教)、19人がイスラム教、13人がヒンドゥー教、6人が仏教、
そして5人がアニミズム(木や石などにも霊魂があると信じる宗教)を
信じています。残りの人々は他の様々な宗教を信じているか、
無神論者です

20人が富の90%を保有し(うち6人のアメリカ人が60%を保有)、
同じく20人の貧困層はわずか1%しか保有していない
すべてのエネルギーのうち
20人が80%を使い
80人が残りの20%を分けあっています

30人の子供、70人の大人がいますが、大人の14人は文字が読めません
25人は栄養が十分ではなく1人は死にそうなほど
でも、15人は太り過ぎです
大学の教育を受けているのはたった1人
100人のうち7人が車を持ち
2人だけがコンピューターを所有

この村は、自分自身を何回も粉みじんにできるほどの核兵器を持っています。
これをたった10人が管理しています。残り90人の村人は、彼らはうまくやって
いけるんだろうか、また、村のどこに危険な放射能を帯びた廃棄物を処分する
のか、とても心配しながら見守っています

この村では毎年2人が生まれ、1人が死んでいき、来年この村の人口は
101人になるでしょう

※当初の新聞投稿とメール版の対比は『世界がもし100人の村だったら』(マガジンハウス)の解説に載っています。


カジポン・タイムズNO.184

★うおお、感動!週刊『日本の美をめぐる』(560円/小学館)について!!


毎週火曜日に発売されている『日本の美をめぐる』。古代から近代までの美術作品を紹介している本だ。A4大の大判サイズなのにオールカラーで560円というのは、実にありがたい。特筆したいのは掲載写真の発色の良さ(美術書はこれが命)!
鮮やかな色彩に目をみはるばかり。作品への照明の当て方が上手いうえ、最も魅力的に見える構図を選んでいる。
また、中トジ部分のピンナップは80cmX30cmとかなりの迫力で、そこに各巻のイチオシ作品がバーンと出ている(ここに何が紹介されるのか、それを見るのが火曜日最大の楽しみ!)。

刊行が始まったのは今年の四月。以来、シリーズ全50巻のうち、現在36巻までが発売された。どれも作り手の意気込みが感じられたが、僕は小学館に頼まれて宣伝しているわけではなく、中にはイマイチな巻もあり、全巻を勧める気は毛頭ないッス。

そこで“ううっ、今回は凄かった!”と感激した巻(15巻分)だけを以下に厳選!これを参考に気になった巻を本屋でチェックして下さい。大きな書店では初期のものからバックナンバーが揃っています。

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(1巻)視覚の魔術師・北斎
奇想天外な構図で富士を描いた浮世絵師・葛飾北斎の名作「富嶽三十六景」の、すべての富士が掲載されているのは圧巻!また風景以外にも、妖怪モノや風俗画、彼の描いた漫画までが収録されている。しかも創刊号は特別定価の350円とめちゃ安!
ピンナップ…諸国瀧廻り(たきめぐり)

(2巻)奇跡の出会い・宗達と光悦
天才絵師・俵屋宗達と書の神様・本阿弥光悦の合作を多く紹介。また、光悦は書の腕がたっただけでなく、陶器や工芸品にも優れた傑作を多数残しており、彼の代表作がもれなく掲載されている。
ピンナップ…風神雷神図屏風

(3巻)水墨画の巨人・雪舟
今年、社会現象とまでいわれるほど多くの人がつめかけた雪舟展。その雪舟の国宝絵画を徹底解説。展覧会で買った2500円の図録より、こっちの方が重要作品にピントが絞ってあり分かりやすかった。山水長巻(16m)と源氏物語絵巻など他の有名絵巻の長さを図で対比したのは、視覚で易しく理解出来てグッド・アイデア。
ピンナップ…山水長巻

(4巻)奈良の都と大仏開眼
この号は全ページがハズレなし、超エキサイティングなものだったッ!東大寺の四天王立像、興福寺の阿修羅像、薬師寺の薬師三尊像など、奈良の至宝がこれでもかとオンパレード。是が非でもゲットしたい、一家に一冊の必需品!
ピンナップ…四天王立像(めちゃくちゃカッコ良い)

(9巻)洗練の極致・光琳と琳派
燕子花(かきつばた)図屏風や紅白梅図屏風で名を馳せた尾形光琳。彼は着物や工芸品にも華麗で洗練されたデザインを多く考案した。その光琳の作品と、彼の芸術を独学で学び継承していった人々(琳派)の作品を紹介。焼物特集では野々村仁清の名品なども登場し、非常に豪華絢爛な号になっている。究極の目の保養!
ピンナップ…紅白梅図屏風

(11巻)法隆寺と聖徳太子
法隆寺の仏像群が第4巻(奈良の仏)で紹介されなかったのは、法隆寺だけでまるまる一冊分あるため!ルーブルに展示された際に「東洋のヴィーナス」と絶賛された百済観音、フェノロサが「世界一美しい彫刻」と感動した救世観音、隣接する中宮寺の本尊でみうらじゅんを虜にした菩薩半伽像など、枚挙にいとまがない。究極秘仏・救世観音を横から撮った写真を初めて見たッ!
ピンナップ…百済観音立像

(12巻)棟方志功と民衆芸術の展開
板画の巨匠、世界のムナカタ。ピンナップの釈迦十大弟子がド迫力。
ピンナップ…釈迦十大弟子

(14巻)金と銀の長谷川等伯
天下の御用画家集団・狩野派一門が、その実力を恐れ最もライバル視していた男、長谷川等伯。彼の代表作・松林図屏風は、国内の多くの美術評論家たちが日本の芸術作品の最高傑作とよんでいる名作中の名作!ピンナップの巨大な松林図屏風はカジポン家の家宝。(560円でも家宝は家宝!)
ピンナップ…松林図屏風

(15巻)アニメの始まり鳥獣戯画
人間社会をひょうきんな11種類の動物たちで風刺した鳥獣戯画が制作されたのは平安時代後半。約千年も昔の作品が、よく京の戦乱をくぐり抜け保管されてきたものだ。鳥獣戯画の他にも今号には、大昔の落書きや放屁の風力を競い合っている「放屁合戦絵巻」というトンマなものも載っていた。
ピンナップ…もちろん、鳥獣戯画

(18巻)利休・織部と茶のしつらえ
日本の3大茶人、千利休、古田織部、小堀遠州の愛した茶の湯ワールドを特集。茶道具の逸品が美しい写真で紹介され、茶の湯用語や茶室の構造の解説もある。この巻はぜひとも手元に置き重宝したい!
※ひなびた茶室で簡素な道具を使い、静寂の美を楽しむ茶人たちを見たイエズス会宣教師ルイス・フロイスは、「我々は宝石や金銀を宝物とするが、日本人は古い釜、ひび割れた陶器や土器を宝物とする」と仰天した。
ピンナップ…待庵

(19巻)運慶と快慶 肉体を彫る
日本最高の彫刻家・運慶と、彼のライバル・快慶の代表作が網羅された一冊。4巻、11巻、そしてこの19巻を揃えれば、仏像ファンは至福の極み、もう毎日がバラ色。この巻は両雄の他にも、湛慶(たんけい)ら慶派一門の傑作(口から仏が飛び出す空也上人立像など)も掲載されている。断固確保すべき一冊!
ピンナップ…東大寺南大門・金剛力士立像

(23巻)正倉院 アジアの浪漫
正倉院の秘宝カタログといった趣き。単純に見ていて楽しい。
ピンナップ…鳥毛立女屏風

(27巻)信貴山縁起と伴大納言絵巻
サイキックSF大作の信貴山縁起(しぎさんえんぎ)絵巻、緊迫政治サスペンスの伴大納言絵巻など、国内の傑作絵巻の数々を紹介。どの絵巻も人物描写が巧み!特に躍動感あふれる庶民の描写が素晴らしい。
ピンナップ…伴大納言絵巻

(31巻)高松塚古墳と古代の造形
縄文式土器、弥生式土器、はにわ、古墳壁画、銅鐸など、古代美術の特集号。この時代の芸術を紹介したものは、分厚い専門書(高価!)が多いので、本誌は入門用にもってこい。グラビアも充実。やってくれる。
ピンナップ…高松塚古墳壁画

(34巻)竜安寺石庭と禅の文化
全国の「枯山水」(水を用いないで山水の景色を作った石庭)ファン垂涎の一冊。白砂の上に点在する岩々は、大海に浮かぶ小島にも、雲海から突き出た山々にも見え、向き合った者の想像力を刺激しまくる!枯滝(かれたき)から水の音が轟き、石組みは中国の禅僧が悟りを開いた深山幽谷(しんざんゆうこく)を彷彿させる。あのピーンと緊張感が漂う優美さは一度ハマるとジャンキーになることウケアイ!京の都だけでなく、地方の枯山水も紹介されているのが嬉しい。(一休和尚の実像に迫るコーナーもあり)
ピンナップ…竜安寺方丈庭園(世界遺産)

●さらに独断と偏見で「おすすめベスト10」を選考!!


1.(4巻)奈良の都と大仏開眼
2.(19巻)運慶と快慶 肉体を彫る
3.(34巻)竜安寺石庭と禅の文化
4.(11巻)法隆寺と聖徳太子
5.(18巻)利休・織部と茶のしつらえ
6.(1巻)視覚の魔術師・北斎
7.(9巻)洗練の極致・光琳と琳派
8.(3巻)水墨画の巨人・雪舟
9.(27巻)信貴山縁起と伴大納言絵巻
10.(31巻)高松塚古墳と古代の造形

これらは入門用でありながら第一級資料でもあるという珠玉の10冊ッス!
(とにかく、やたらと値が張る美術書の中で、この値段は革命的!)

※小学館に電話して在庫を訊いたら、「第1号から全部あります!」とのことなので、近所の本屋でも取り寄せ可能です。

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