〜国民の声が政府を動かす〜
超展開!検察庁法改正狂騒曲
2020.5.23


検察官は首相さえ逮捕可能な強大な権限を持っているからこそ、時の政治権力から独立していなければならない。官邸がお気に入りの検察幹部を“選んで”定年延長させることが制度上可能になる検察庁法改正案は、今国会で強行採決されるとみられていたが、「検察独立性の危機」と世論の反対意見が大きくなり、政権は今国会での成立を諦めた。これまで安倍政権は、世論が真っ二つになった安保法制等の法案をすべて強行採決で突破してきたことから、今回採決を見送ったことには本当に驚いた。そのくらい、世論と検察OBの意見書の力が無視できなかったということだ。とはいえ、次の臨時国会で法案が成立すると「官邸に嫌われたら検事総長になれない」という風潮がはびこってしまう。コロナ禍の下でオンライン(ツイッター)デモが行われ、SNSの声が初めて政治を動かしたことや、勇気を出して発言した芸能人を讃えるため、そして後世のために何が起きたか記録しておく。

【重要】検察庁法第二十二条で「検事総長は年齢が六十五年に達した時に、その他の検察官は年齢が六十三年に達した時に退官する」と定められている。この条項が書かれた理由は、検察官が起訴を行う「公訴権」という大きな力を持つことから、思惑や裁量が一切入らない「年齢」という平等な基準で定年を決め、政治的な影響を制度的に排除するためだ。1947年に制定され、「検察庁法の施行は日本国憲法施行の日と同日にする」とわざわざ条文に書くほど重要な特別法。首相が閣議決定で勝手に無視していい法律ではない。

2019年10月31日…検察庁法改正案の原案が作られる。この時点では「検事の定年を65歳に引き上げる」「(総長以外は)63歳に達した翌日から(ヒラの)検事になる」とだけしかなかった。

11月…法務・検察首脳部は黒川検事長が翌年2月で定年退官を迎える人事案を官邸に報告。だが、官邸は「黒川は必要な人材」として人事案をつきかえす。

2020年1月31日…63歳の誕生日(定年日)を1週間後に控えた検察ナンバー2、黒川検事長の定年延長が突如として閣議決定される。検察官の定年延長は“史上初”。黒川氏は官房長官と親しく交流し、官邸に非常に近い人物。検察トップの検事総長は2年間の任期が慣例であり、現在の稲田検事総長は8月初旬に引退すると見られ、これによって黒川検事長は検事総長になる道が開けた。
国家公務員法では「退職によって公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるとき」に定年を延長できるとある。首相は「検察官も国家公務員であり、この規定を適用した」「黒川氏は余人(よじん)をもって代えがたい人物」と説明。
※この日、NHKが取材した検察幹部から「定年延長なんてできるの?そんな法律があるのか?」と驚きの声があがる。元検事(リクルート事件担当)・高井康行「これまで政権は人事を通じて検察にアメもムチも与えることができず『定年制』こそが政権からの介入を防ぐ『防波堤』の1つになっていた。今回のいちばん大きな問題は政治がこの『防波堤』を勝手に動かしてしまったことだ」「民主国家が健全に運営されていくためには、絶大な権力を持つ検察が『政治から独立している』と国民から信頼される必要がある。信頼がなければ正しい判断で不起訴にしても世間から『政治にそんたくした』と誤解されてしまう」。
なぜ黒川氏は「これは違法ですから」と辞退しなかったのか。

2月10日…野党が「定年延長は違法」と指摘。検察官は一般の国家公務員と異なり、検察庁法によって特別に定年が決まっている。一般法の国家公務員法よりも特別法の検察庁法が優先されるため、閣議決定は違法となる。
一般法の国家公務員法「公務員は定年延長できる」
特別法の検察庁法「検察官は定年延長できない」
特別法>一般法にもかかわらず安倍政権は「黒川氏は特別に定年延長を認める」と閣議決定
※法的には、黒川氏は定年を過ぎてもまだ在籍している状態であり、違法に給料が支払われ続けているわけで、今後裁判になるだろう。

〔政府が「余人(よじん)をもって代えがたい」と絶賛する黒川氏について〕
第二次安倍政権になってから、従来なら間違いなく起訴されていたであろう政治家の汚職がことごとく不起訴となっている。
・小渕優子元経産相の政治資金規正法違反事件(2015)→後援会を何年も観劇に招待し金券を配り、政治資金収支報告書の虚偽記載額は3億円に達したが、小渕側がハードディスクをドリルで破壊する悪質な隠ぺい工作を行い本人不起訴(秘書のみ在宅起訴)
・甘利明元経済再生担当相に建設業者からの現金授受疑惑(UR事件)(2016)→口利きを頼んだ贈賄側の音声証拠(甘利事務所で録音)まで残っているのに不起訴。特捜部は甘利事務所への家宅捜索さえ行なえず。
・下村博文元文科相が得たパーティー券代(加計学園分)の政治資金規正法違反疑惑(2018)→不起訴。下村氏が約束した国民への丁寧な説明はいまだなし。
・「森友学園」を巡る国有地不正売却や文書改ざん問題(2018)→財務省への捜査は潰され、佐川宣寿国税庁元長官や財務省職員ら38人の全員が不起訴に。後に検察審査会が佐川氏らを不起訴不当とする議決をしたが特捜部は再び不起訴にした。
こうした不起訴案件は黒川氏が現場に圧力を加えた結果といわれ、氏は「官邸の守護神」「政権の門番」と呼ばれてきた。黒川氏は共謀罪法案の成立などにも奔走したことが官邸に高く評価され、政治家との調整役を担う法務省大臣官房長を異例の5年間も務め、2016年には法務事務次官に抜擢された。刑法が禁じる賭博場(カジノ)を合法化(2016)したときの法務省のトップは黒川氏だ。
黒川氏は頻繁に管官房長官と食事をする親しい仲。菅官房長官が黒川氏を「内閣の法律アドバイザー」として連れまわしていたという官僚の内部告発もある。時の政権が特例を使って幹部人事を左右できるようになれば、ますますその意向に沿った捜査が行われる危険性をはらむ。

2月12日…国家公務員法が1981年に改正されて60歳定年や最長3年までの「勤務の延長」(定年の延長)が規定された際、「国家公務員法の定年規定は検察官には適用されない」と当時の人事院局長が明確に答弁している。これを踏まえ、人事院の松尾局長は「(1981年の解釈は)現在も続いている」と答弁。
※つまり、松尾局長は検察官の定年延長は違法と認めた。

2月13日…野党の追及を受けた首相は「検察官にも国家公務員法の規定が適用されると“法解釈を変更”した」と答弁。
※官邸としては、検察庁法で定年延長が無理だから、国家公務員法の勤務延長で強引に定年を引き延ばすしかない。

2月19日…人事院の松尾局長は一転して「勤務延長可能」と答弁。2月12日に「違法」とした自らの答弁を「つい言い間違えた」と撤回した。
同日、法務省で検察トップの検事総長や地方検察庁トップの検事正らが一堂に集まる会議があり、検事正の1人が黒川氏の面前で「不偏不党でやってきた検察に対する国民の信頼が疑われる。国民に対して丁寧に説明すべきだ」と声を上げた。会議で議題以外の意見が出るのは極めて異例。現職の検察幹部「筋が通った説明ができないなら検察は死んだも同然だ」。

2月21日…法解釈が黒川氏のための「後付け」と考える野党は、解釈の変更がいつ行われたのか問いただす。提出された法解釈の検討文書に日付が無いことを指摘し、「この文書は本当に決裁したものか」と質問。森法相は、文書の決裁は「口頭決裁」で済ませたと説明。怒った野党は「(73年も続いた)立法以来の法解釈を口頭決裁でねじ曲げるなど、法治国家としてありえない」と批判。中央官庁で「口頭決裁」は日常使われている言葉でなく、ハンコ文化である他省庁からは「例がない」などの声が続出。
公文書管理法4条は「行政機関の意思決定過程の合理的な検証」を可能にする文書作成を義務づけている。だが法務省は解釈変更に関する省内の会議や内閣法制局などとの打ち合わせに関する文書を保存していなかった。

2月24日…小西洋之議員(無所属)が国立公文書館で、国公法改正案が国会で審議されていた1980年当時に総理府人事局が「検察官への定年延長の適用は除外」と明記した文書を発見する。
※これでますます安倍政権の法解釈が暴走していることが浮き彫りとなった。

3月9日…森法相は「法解釈を変更したのは社会状況の変化のため」としたので、野党が具体例を質問。すると森法相は「東日本大震災発生時、福島県いわき市の検察官が市民よりも先に逃げたため」と意味不明の答弁。逃げたのではなく、被災して建物がダメージを受け、業務遂行のため郡山に移っただけであり同月に戻っている。信じ難い発言に国会は紛糾。翌日、森法相は「事実と異なる発言をしてしまったので撤回したい。深くお詫びする」。

4月6日…日本弁護士連合会が「検察官の政治的中立性や独立性が脅かされる危険がある」と会長声明。

4月16日…検察庁法改正案が衆議院本会議で審議入り。改正案では、内閣が定めた事情がある場合、検察幹部はその役職のまま最大3年間定年延長されるとした。また、国家公務員は定年延長に人事院の承認が必要だが、検察庁法改正案では内閣の一存で延長が可能になっている。つまり、内閣の判断で検事総長は68歳まで、検事長は66歳まで定年を延長できることに。

5月8日…ツイッターにハッシュタグ付きの「#検察庁法改正案に抗議します 右も左も関係ありません。犯罪が正しく裁かれない国で生きていきたくありません」が投稿され、抗議の投稿はリツイートも含めて2日間で延べ480万件を超えるなど急速に広がった。ツイッター・デモと呼ばれ、期せずして『オンライン・デモ元年』となった。

5月9日…多くの俳優やミュージシャンら著名人が「#検察庁法改正案に抗議します」と投稿、抗議の輪が広がっていく。

5月10日…きゃりーぱみゅぱみゅさん(フォロワー523万人)が「#検察庁法改正案に抗議します」と投稿、このハッシュタグがさらに注目を集める。一方で、「無知は罪」「勘違いババア」など中傷が相次ぎ、政治評論家の加藤清隆氏は「歌手やってて、知らないかも知れないけど」「デタラメな噂に騙されないようにね」と書き込み、きゃりーさんは「歌手やってて知らないかもしれないけどって相当失礼ですよ」と反論。翌日「ファン同士で意見が割れて、コメント欄で激論が繰り広げられ悲しくなった」として前日のツイートを削除したが、投稿した理由を「コロナで大変な時に今急いで動く必要があるのか、自分たちの未来を守りたい。自分たちで守るべきだと思いつぶやきました」と説明した。俳優の秋元才加さんや小泉今日子さんらにも「勉強してから言え」「何も分かっていない」などと、男性が上から目線で女性に解説や説教をする「マンスプレイニング」が見られた。

 

政府からすれば「沈黙」は「賛同」と同じ。投票の「棄権」も「賛同」と同じ。「勉強不足だから発言しなかった」「分からなかったから黙っていた」という態度が美徳とされる社会ほど、政府にとって都合のいいものはない。「政策に違和感を感じた」というレベルでどんどん書いていいし、その方が政治家だって「なるほど、ここが誤解されているのか」と問題点がわかり説明に力を注げる。日本では選挙の低い投票率や、飲み会で政治の話はタブーというような、政治に対する無関心が問題になっている。著名人が積極的に発言し始めたのはとても良い変化。議論が生まれることが大事!
以下、著名人が語った言葉を一部紹介。

井浦新(俳優)
「もうこれ以上、保身のために都合良く法律も政治もねじ曲げないで下さい。この国を壊さないで下さい。#検察庁法改正案に抗議します」

宮本亜門(演出家)
「このコロナ禍の混乱の中、集中すべきは人の命。どうみても民主主義とはかけ離れた法案を強引に決めることは、日本にとって悲劇です。#検察庁法改正案に抗議します」

大友良英(作曲家)@「あまちゃん」「いだてん」
「こんなものを通したら民主主義の根幹が崩れかねないとわたしは考えています。政党超えて、この法案を止める力のある国会議員には反対してほしいし、新聞を含むメディアもことの深刻さを伝えてほしいと思います。#検察庁法改正案に抗議します」

いきものがかり 水野良樹(ミュージシャン)
「どのような政党を支持するのか、どのような政策に賛同するのかという以前の問題で、根本のルールを揺るがしかねないアクションだと感じています。#検察庁法改正案に抗議します」

小泉今日子(俳優)
「私、更に勉強してみました。読んで、見て、考えた。その上で今日も呟かずにはいられない。#検察庁法改正に抗議します」
※小泉さんは「#検察庁法改正案に抗議します」をつけた投稿を7連投。

鴻上尚史(劇作家)
「国民が感染症に苦しんでいるときに、内閣や法相が認めれば検察庁幹部の定年を例外的に延長できる法律を通すなんてストーリーを書いたら、プロデューサーから間違いなく『ありえないです。リアリティがなさすぎ』と突っ込まれると思う」

野木亜紀子(脚本家)@「逃げるは恥だが役に立つ」
「左の人がタグで騒いでるから乗らない、とか、左の人が言ってるからこの法案は正しいとか、そういうのもうやめませんかね。これ右も左もない話で私は共産主義なんて信奉してない、民主主義を愛する日本国民ですよ。左右ではなく問題を知って判断してほしい」

吉田戦車(漫画家)
「得意技の「ある組織の人事を自分の都合のいいものにする」を、いつまでも使わせてちゃいかん。#検察庁法改正案に抗議します」

城田優(俳優)
「大事なことは、ちゃんと国民に説明してから、順序に則って時間をかけて決めませんか? そんなに急ぐ必要があるんですかね。#検察庁法改正案に抗議します」

嘉門達夫(ミュージシャン)
『怒りのグルーヴ(検察庁法改正案編)』「ボケボケボケボケ、ドアホドアホドアホ、ええ加減にせえ、ええ加減にせえ、あ〜!自分達に都合のいい法案を通す、バカにすな、バカにすな、あ〜!検察と行政の癒着を許すな」
※2分間の短い曲、頭出し済 https://www.youtube.com/watch?v=US-OGwbcDjo#t=0m10s

LOVE PSYCHEDELICOのギタリストNAOKI
「法改正してまで、退任後の逮捕を逃れようと我が国の総理大臣は実は必死なのです。そんな他に全く理由のない法改正がこの国ではどさくさに紛れて通ってしまう。一言言っていいですか? この火事場泥棒!」

ウーマンラッシュアワー村本大輔(漫才師)
「検察という番犬を飼い慣らして、自分達を逮捕できないような仕組みを作ろうとしてるとしか思えない。しかもコロナで国民が生活という目の前のことに盲目になってるドサクサにまぎれてコソっと通そうとしてるところに姑息さを感じる」

ハマカーン・神田伸一郎(漫才師)
「#検察庁法改正案に抗議します 人それぞれの信念だから政治と宗教についてはツイートしないのだけど、これはさすがにルール違反だからね。」

水原希子(俳優)
「東京高検・検事長黒川弘務氏の違法な定年延長に抗議し、辞職を求めます」と署名を呼びかけ。

パトリック・ハーラン(タレント)
「今まで安倍政権が行った強行採決は安全保障や経済など国民全員に関わるものという大義名分が名目上はあった。それが今回見当たらない。公務員数人、もしくは一人のための都合のいい法案にしか見えない」「なんで緊急事態宣言中に法案を通さねばならないのか」

西田敏行(俳優)
「改正案はおかしい! 私もそう思います。果たしてそれをコロナが蔓延しているこの時期に、政府が率先してやるべきですか」

マンガ家からも多くの声があがった。羽海野チカ、二ノ宮知子、江口寿史、伊藤潤二、しりあがり寿、さそうあきら、けらえいこ、榎本俊二、松田洋子、ヤマシタトモコ、ねむようこ、小玉ユキ、南Q太、田亀源五郎、羽生生純、島崎譲等々。
ほかにも、俳優の西郷輝彦、浅野忠信、ラサール石井、秋元才加、鈴木砂羽、映画監督の岩井俊二、『この世界の片隅に』の片渕須直、金子修介、入江悠、作家の島田雅彦、平野啓一郎、村山由佳、綾辻行人、角田光代、俵万智(歌人)、美術家の奈良美智、会田誠、作詞家の松本隆、ミュージシャンのChara、岸田繁(くるり)、高野寛、末吉秀太(AAA)、コムアイ、キヨサク(MONGOL800)、小宮山雄飛(ホフディラン)、声優の緒方恵美(碇シンジ役)、芸人の大久保佳代子、大谷ノブ彦(ダイノジ)、バレーボールの大山加奈選手。
東京工業大の西田准教授(社会学)「新型コロナの強い制約下に国民が置かれているなか、普段は政治的な発言をしないアーティストやタレントが意見を述べたことで、多くの人たちが関心を示した」。
※2015年の安保法制で反対の声をあげた、坂本龍一、渡辺謙、石田純一、笑福亭鶴瓶、SHELLYなどと顔ぶれが変わった印象。

5月11日…8日夜から11日夕に投稿された「#検察庁法案に抗議します」のツイートは約473万件に達した。政権はこの動きを「誇大された数字であり、機械を使ったツイートだろう」と軽視。だが、東大の鳥海准教授(計算社会科学)の分析では、拡散で不自然な傾向はほぼなかったという。関わったアカウントは約58万8千。ツイートのうち1回しか投稿していないアカウントは全体のおよそ80%。リツイート数が10回以下のものが約100万。リツイートを70回以上行ったものが2%(約1万2千アカウント)でリツイート全体の半数を占めていたが、「ボット」と呼ばれる自動プログラムによる発信は多くはみられなかった。危機意識から何度もリツイートしており、同じ内容の投稿を大量に繰り返すような業者の「スパム」とは異なるという。

5月12日…小泉進次郎環境相が検察庁法改正案についての見解を問われ「法案審議中であり大臣としての回答を控える」。これに映画監督の想田和弘氏「ついに政治家が政治的発言を控えた。映画監督が映画を作るのを控え、料理人が料理を作るのを控え、介護士が介護するのを控え、作家が物を書くのを控え、教師が教えるのを控え、ヤマトが宅配を控えるのと同じですよ、これ」。

5月13日…国会にて検察幹部の定年延長を認める場合の基準について武田行革相が「今はまだない」と答弁し審議が中断。野党は「内閣が判断する定年延長の基準がないのに納得できるわけない。第2の黒川、第3の黒川を生むだけだ」と抗議。この現場にいた自民党の内閣委員・泉田議員が「国会は言論の府、(与党の)強行採決は自殺行為」「強行採決なら退席する」とツイートを投稿、これに官邸は激怒し、3時間後に泉田議員は内閣委員から外されていた。法改正に反対する関連ツイートが1000万件を超える。

5月14日…首相「検察官は行政官であり三権分立が侵害されることはない。恣意的な人事が行われることは全くないと断言したい」。
※だが、安倍政権は公文書改ざんを指示した佐川理財局長を国税庁長官に出世させており、“恣意的な人事はしない”と言っても説得力がない。人事に介入する閣議決定をしたあとで言っても信用できない。
※この日YouTubeに公開された、お笑い芸人せやろがいおじさんの新作動画が、解説の分かりやすさと「補償は遅いのに保身は早い」などギャグのキレ味で異次元レベルの傑作に。言葉を選び罵倒一切なし。一休さん理論、カレーうどん話に爆笑!
「5分で分かる!検察庁法改の内容と問題点について」 https://www.youtube.com/watch?v=3DZT_8NDNJA

5月15日…元検察トップの松尾元検事総長らロッキード事件を捜査した検察OBを中心に14人が改正案反対の意見書を法務省に提出。検察の元トップが法案について公然と批判する異例の事態であり、官邸への決定的な逆風となる。
「安倍首相が内閣による解釈だけで法律の運用を変更したという宣言であって、フランスの絶対王制を確立し君臨したルイ14世の言葉として伝えられる『朕(ちん)は国家である』との中世の亡霊のような言葉を彷彿(ほうふつ)とさせるような姿勢である」「17世紀の高名な政治思想家ジョン・ロックは《法が終わるところ、暴政が始まる》と警告している。心すべき言葉である」「今回の法改正は、検察の組織を弱体化して時の政権の意のままに動く組織に改変させようとする動きで看過できない」。
小泉今日子「(検察OBの意見書に)泣きました。そして背筋が伸びました。こういう大人にわたしはなりたい」。
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同日の国会。森法相「検察幹部の定年延長は黒川氏と関係なく、重大かつ複雑困難事件の捜査に対応するためだ」野党「では、過去に定年延長をしなければ対応できないほどの事例があったのか?」森法相「特段の事例は見当たらない」野党「黒川氏以外にはないということでいいか」森法相「その通り」野党「ということは、この改正案の立法事実(改正理由)は黒川氏のケースしかないとまさに森大臣も認めたということではないか」。
※そもそも、起訴を行う「公訴権」を持つ検察官は、皆が同じレベルの仕事をしなければならず、「この人だけ優秀だから定年延長」という条件設定がおかしい。
同じく国会。安倍首相「法案が通ってから定年延長の要件(基準)を考える」。
※これでは順序が逆。通すことが目的になっていないか。

同日、安倍首相は保守系インターネット番組で「黒川氏の定年延長は法務省側が提案した話であって、官邸側はこれを了承したにすぎない」と説明、検察界を仰天させる。
※本当に官邸は無理強いしていないのか、検察幹部を国会に呼んで確かめる必要がある。そもそも、安倍政権になって以降、検察の人事は官邸が握っている。2016年7月、法務・検察首脳部はエースの林真琴・前刑事局長を事務次官に就任させる人事案を官邸に上げたが、官邸は人事案を突き返し、官邸と親しい黒川弘務・官房長を次官に据えた。2017年7月及び12月、法務・検察首脳部は林氏を次官にする人事案を上げたが、これも官邸は拒否して黒川次官を留任させ、林氏は次官になれないまま名古屋高検検事長に異動した。 今の稲田検事総長は次期検事
総長として林氏をずっと推してきたが、それを拒んできたのは官邸だ。安倍首相が言う「検察の総意で持ってきた人事をそのまま承認している」は完全に嘘。この発言で首相は完全に検察の信頼を失った。

5月18日…東京地検特捜部元検事38人からも改正案反対の意見書が出される。自民・中谷元防衛大臣「全く事前に自民党や与党にも相談なく、突然、閣議決定で(黒川氏の定年延長が)決まったことにびっくりした。官邸の一存で定年延長が決まると、検察に対する信頼を失ってしまうのではないか。審議を見ていても、(定年延長)決定の基準はこれから検討しますと、非常に許されない答弁が続いている。これでは国民の理解は到底得られない」。

夕刻、政府与党は法案の今国会での成立を断念し秋の臨時国会での成立を目指すと発表。安倍首相は検察庁法改正案の見送りについて「国家公務員の定年延長に批判があった」と話をすり替え、問題になった検察庁法改正案については会見の最後まで一言も触れず。国民は検察庁の定年延長を内閣が決めることにだけ反対していたのに、どうして公務員の定年延長に反対したことになっているのか。
SNSには「検察庁法が改正されず定年延長の法的根拠がなくなったのだから黒川は今すぐ辞任すべきだ」「自分の定年日に気付かずに、いまだに昔の職場に通ってる人に、なぜ給料を払い続けるのか」と怒りの投稿が相次ぐ。

5月19日…小泉今日子「小さな石をたくさん投げたら山が少し動いた。冷静に誰が何を言い、どんな行動を取るのか見守りたい」。高田延彦(格闘家)「今は分が悪いから先送り。隙あらば…この発想は懲りない悪だくみだな」。宍戸開(俳優)「結局のところ権力は常に人々の声を恐れているということ」。

5月20日…柴咲コウ(俳優)がツイッターで懸念を示していた「種苗法改正案」について、自民党は今国会での成立を見送る方針を示す。

5月21日…「週刊文春」が黒川検事長の賭けマージャン報道を掲載、52万部が完売する。急転直下、永田町では黒川氏の辞職やむなしの空気が広がる。
同日、法律家662人が安倍首相を刑事告発。次の2点で首相は罪に問われている。
(1)公職選挙法違反…前夜祭の豪華パーティーをニューオータニでやると、最低でも1人あたり1万1千円かかるのに参加費は5000円。差額分を後援会がホテル側に支払っていれば、公選法が禁止する有権者への「寄付行為」にあたる。
(2)政治資金規制法違反…仮に参加費が5000円であったとしても、約800人分の約400万円をホテル側に払ったという支出の記載が政治資金収支報告書になく、記載義務違反。首相が主張する「主催者が後援会でホテルとの契約が個人」というのは法的にまったく成り立たない。

「桜を見る会」は税金を5500万円も使って総理が主催する会で飲食は無料。ここに安倍首相の後援会関係者が多数参加していた。元最高裁判事・濱田邦夫「国民の税金を自分の当選のために選挙民の供応に際限なくあてるだけでなく、法律や規則を無視することは政治家に許されない」。
「桜を見る会」は誰でも参加できるわけじゃない。功績・功労のあった人物だけが招待される。だが、実際は安倍事務所が参加申込書を地元で配布していた。しかも申込書には「参加される方が、ご家族、知人、友人の場合は、(申込書をコピーして)別途用紙でお申し込み下さい」とあり、いくらでもコピーで増やせた。安倍事務所だけが各界の功績・功労に関係なく幅広く募っていた。指摘を受けた首相は「募ってはいたが募集はしていない」と珍答弁。安倍事務所が選挙区の有権者を含む800人以上を「桜を見る会」に招待して、無料で飲食を提供していたことは公職選挙法の“買収罪”にあたる。
首相枠の招待者にはマルチ商法ジャパンライフの会長や反社会的勢力も含まれていたとみられ、実際に誰を推薦していたか国会で問われた首相は「推薦名簿を既に破棄しており定かではない」とした。ちなみに過去の政権は「桜を見る会」が税金を使った公的行事であるため名簿を破棄していない。
※首相が黒川氏に固執したのは、他の人だと辞めた後に捕まるかもしれないと恐れているから?

5月22日…黒川氏に対する処分は“訓告”(注意処分)という軽いものだった。辞表が受理され、税金から退職金約7000万円が支払われることに。逮捕も起訴もないから無罪と一緒であり、賭けマージャンは合法と検察自身が身をもって証明しているようなもの。「余人(よじん)をもって代えがたい人」がコロナ自粛中に賭けマージャンをして遊んでいたわけで、首相の任命責任が問われるのはもちろんのこと、定年延長を認めた閣議決定も取り消すべき。
検察OB「黒川の賭け麻雀は立件しないとダメ。特別扱いするとますます世論の批判を浴びる。稲田検事総長の最後の仕事は、河井夫妻事件の立件と黒川の麻雀賭博のケジメでしょう。訓告なんて処分はふざけている」。

現在、河井元法相と妻の河井案里議員の公選法違反が問われており、逮捕秒読みとみられている。河井夫妻を最も後押ししていた政治家が安倍首相。2019年の参院選において、安倍首相に批判的な自民・溝手顕正(みぞて けんせい)氏と
同じ選挙区に、官邸は新人の河井案里氏を立てた。党本部から選挙資金として溝手側に1500万円、河井側には10倍の1億5千万円が渡される。河井側は地元議員らにお金をばら撒いて当選、溝手氏は落選する(河井側の選挙資金の残金が安倍事務所に還元された疑惑もある)。うちわを配っただけでクビになった大臣もいるのに現金をばら撒き買収するとは驚き。そのうえで法相に就任する河井元法相…。他にも中国から賄賂を受け取った秋元司衆院議員がカジノ誘致のIR汚職で東京地検特捜部に逮捕(2019)されており裁判待ちだ。IR汚職の容疑がかけられた他の5議員の立件は、「受け取った100万円は少額だから」と見送られた。

今国会で、日本でもついにSNSが政治を動かした。今回、著名人は与党支持者から攻撃されても萎縮せず、自分の意思表示をやめなかった。米国では著名人の発言と作品への評価は別物と考えられる傾向があり、俳優はあまりCMに出演しないこともあって、アカデミー賞の授賞式でもバンバン政治的な主張をする。一方、日本はスポンサーや事務所のしがらみで芸能人が自由に発言するのは難しいと言われてきた。勇気を出して声をあげ始めた表現者に心から敬意を表したい!
検察OB有志の反対声明も特筆すべき動きだった。ロッキード事件で最前線に立った元検察官の理路整然とした反対意見に、反論できる議員などいない。ネットで「芸能人に法律のことが分かるのか」と叩いていた人も、検察OBに対しては「法律の素人」と強弁できず沈黙するしかなかった。
政府は黒川氏のことを「余人(よじん)をもって代えがたい」「黒川でなければ対応できない重大事件がある」と説明し、法解釈の変更までして定年を延長した。黒川氏が辞職した今、この先、“重大事件”はどうなるのか。黒川氏にしかできない捜査とは何だったのか。ここは追及すべき部分であり首相の見解を聞きたい。
より良い未来に向かい、日本の政治史の転換点に立っているという胸の高鳴りを感じつつ、ひとまずこのまとめを締める。(2020.5.23)


〔おまけ:ネットでよく見られた政権擁護派とのやりとり〕
Q.法案が施行される時には黒川氏はもう退職しているので黒川氏は関係ないのでは。
A.関係ある。既に黒川氏の定年は延長されており、今回の改正は違法な閣議決定を後付けで合法化するもの。
Q.民主党政権時代から10年間も議論していたのだからもう採決していいのでは。
A.検察幹部の定年延長案は今年2月頃に突然追加されたもの。ちなみに民主党政権は人事院勧告を受けて検討を始めたが議案提出には至ってない。
Q.検察官は行政官なので「三権分立の危機」は的外れでは?
A.検察官は行政官であるが、起訴可能な公訴権を持つ「準司法官」でもあり、その意味では三権分立が揺らぐという懸念は間違っていない。
Q.官邸は検察があげてきた人事を追認するだけ。恣意的な運用はできない。
A.それは過去の話。安倍政権になってからは人事権は事実上、官邸にある。

※首相支持者は野党に対して「コロナが始まっていたのに桜を見る会問題ばかり」と批判していたが、緊急事態宣言中に不要不急の検察庁法改正を強行する安倍政権のことは黙認しており、僕には不可解だった。
※「週刊文春」は今年3月18日発売分も完売している。この号では森友学園問題をめぐって自死した元近畿財務局職員・赤木俊夫さんの遺書を初めて掲載。遺族は「なぜ上部が改ざんを命じたのか明らかになっていない」「責任者の麻生財務大臣が一度も墓参りにこない」と怒り、三回忌に合わせて遺書を公開したが、コロナ禍と重なってすぐに報道から消えてしまった。赤木さんの無念は何ひとつ晴らされていない。


 
イギリスに眠る哲学者ジョン・ロック(1632-1704)のお墓。「法が終わるところ、暴政が始まる」と警鐘。






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